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今年いっぱいでアーティスト活動から引退する愛内里菜が、ラスト・アルバム『LAST SCENE』をリリース。2000年のデビュー以来、自身で作詞を手掛け、作詞家としての才能も発揮してきた愛内里菜。最後のオリジナル・アルバムとなる今作でも、10年間のアーティスト活動を振り返り、その軌跡と引退の決意に至った今の心情とをシンクロさせた、秀逸な詞が揃っている。
主人公と自分自身の距離を計り、使い分けられる“私”と“僕”。これまでの作品では、テーマを俯瞰的に捉えて客観視したい時に“僕”が使われてきた。今作では、引退を決意した時に書いたと言う「HANABI」、アルバム・タイトル曲でもある「LAST SCENE」で“僕”が使われている。果たして、その真意は?
愛内里菜、最後のロング・インタビュー。最後のメッセージ=歌詞に注目!
──まずは引退について、愛内さん自身の言葉でお聞かせください。
2000年3月にCDデビューして以来、これまで一度も立ち止まる事なく進んできたのですが、丸10年を経て、11年目の新たなスタートを切るにあたり、初めて立ち止まり、振り返る事ができたんです。その時に、自分のやりたい事はやり切った、出し切ったと思えた。この10年間を、完結したワンシーンとして見る事ができたんです。そして、その次のステップアップを考えた時に、じっくり自分と向き合う時間が必要だと感じました。たくさん悩みましたし、色んな葛藤もあったのですが、自分の中で区切りをつける事ができ、これまでの10年を引きずるのではなく、自分自身を一度リセットして白紙に戻し、新たなスタートを切りたいという結論に至りました。
──10年と言うのは長かったですか?それとも、あっという間?
あっと言う間の10年でした。本当に早かったなぁと感じています。走り続けて、気が付いたら10年経っていたという感じです。
──2000年3月にシングル「Close To Your Heart」でデビュー。当時は、“コギャルのカリスマ”なんて呼ばれていましたね。
もうコギャルというのもいないっていう感じですよねぇ(笑)。あっと言う間と思いながら、コギャルという言葉が既に一時代前の言葉になっている。そう考えると長い時間が経っているんだなと思います。
──そういうパブリックイメージでデビューしたのが19歳の時。そこから10年を経て、歌のテーマや歌に対する姿勢は変わりましたか?
19才の女の子が30才の女性になるまでと言うのは、一番大きく変化し成長する期間だと思うんですけど、歌詞の世界観や伝えたいメッセージ、そしてサウンドも、私の変化・成長と共にリアルに変わっていったと思います。1曲1曲が、まるで日記か写真のような感じですね。
──そして、いよいよラスト・アルバムがリリースとなるわけですが。
人生と言うのは、人それぞれに、数々のシーンを積み重ねて出来あがっていくものだと思います。今回のアルバムは、私が音楽と出会って、デビューして、山あり谷あり色々あった10年間の喜怒哀楽のシーンを積み重ねたようなアルバムとなりました。
──オープニングの「Prologue」。ピアノの調べで始まるイントロは、アナログ・レコードを再生したようなノイズが入っていますが?
このアルバムは、私の最後のアルバムなのですが、聴いてくれる方も一緒に自分の人生を振り返って貰えるような作品にしたかったんです。そのイントロダクションとして、アナログ・レコードのノスタルジックな雰囲気を取り入れて、音で映像が浮かぶような短い曲を作りました。
──♪君は今何をさがすのでしょう〜という問いかけが心に残りました。みんなで思い出を振り返る卒業式の始まり…そんな雰囲気も感じましたが。
あ〜、確かにそうですねぇ。全く意識してなかったけれど、卒業と言うのは、ラストシーンだけど、始まりですものね。ピアノの伴奏も卒業式の雰囲気ですよね。今、卒業式の絵がめっちゃ浮かびました。そんな風に聴いて貰えるのもすごくうれしいです。
──そして、2曲目「GOOD DAYS」から、物語のスタートですね。「GOOD DAYS」は、まさに“吉日の旅立ち”そんなイメージですが。
今回のアルバム曲の中で、一番最初に出来た曲です。もうすぐ11年目を迎えるという時期に、生まれ変わるような新しい始まり、飛び立つというようなイメージで、真っ白な気持ちで書きました。同時に、過去を振り返った時、それが苦しい日々でも辛い日々であっても、今ここに立っているんだから、それもすべてGOOD DAYSだったよねという想いも重なっています。
──♪無謀にさえ見える明日に飛び込んで〜というフレーズが、とても印象に残りました。
何でもネットで調べられる時代になって、今は何をするにも、ちゃんと材料を集めてから始める、そんな風潮になっているかと思うんですけど、私は、もし失敗したとしても、踏み出した事で見える何かがあるはずだと思うんですよね。
──今回のアルバムでは、愛内さんの“強さ”が前面に出ていると感じたのですが、「GOOD DAYS」は、「Priority」へと繋がっていくようですね。
何かを決断した後は、自分の出した答えを最優先しなければいけない。そういう気持ちを書いたのが「Prioriy」です。アルバムが完成して全曲を並べてみた時に、この曲が一番自分らしい曲だと感じました。この10年間の私の生きざまそのものだなって。
──ご自身で感じている、自分らしさと言うのは?
突き抜けていく感覚ですね。体当たりって言うのかな。とにかく、立ち止まる事だけはイヤで、常に何かできるはずだと思っている。「GOOD DAYS」の♪無謀にさえ見える明日に飛び込んで〜というフレーズにも繋がるんですけど、本当は怖いんだけど、未知の世界へ踏み出す事で、景色がどう変わるのか、それがどうしても見たい。そう思ってしまうんです。そうやって走り続けてきた10年間だったと、しみじみ思います。
──一方で、「MERRY-GO-ROUND」では、焦燥感や葛藤を描かれていますが?
焦って、ためらって、苛立って・・・気持ちがぐちゃぐちゃになってしまう事ってあるでしょう。私自身もそういう葛藤は何度もあったし、その感情を吐き出したいと思って書いたのがこの歌詞です。でも、タイトルは華やかなものにしたかったので、メリーゴーランドという遊園地を象徴する乗り物を選びました。
──メリーゴーランドに置き換えたのは、なぜ?
見た目は華やかでも、実は苦しい思いを秘めている人がいたり、逆に大人しそうに見える人がものすごく強い意志を持っていたり。外側から見たイメージと中身がピッタリ一致している人って少ないと思うんです。そして、そのギャップに悩む事も多い。メリーゴーランドも、外から見ているとネオンに彩られて綺麗ですけど、乗っている人には、前の馬のシッポしか見えない。外と中では大きく違いますよね。
──確かに見ている方が楽しい乗り物かもしれませんね。楽しそうだけど、実はグルグルと回っているだけで、決して抜け出せない。
抜け出せないし、絶対に前の馬には追いつけない。外から見たらとても華麗に回っているんだけど、実はずっと同じ位置にいる。すごく速いスピードで走り続けているのに、前にも後ろにも行けない。それが、自分自身の焦燥感や葛藤と重なって、書いた詞です。
──ラヴソングも実に多彩ですね。「Sing a Song」は、“私”と“あなた”の強い絆と、とってもハッピーな様子が伝わってくるラヴソングですが。
もちろん、男女間の恋愛ソングとして捉えて貰ってもいいんですけど、この曲では、私が音楽と出会って、そこから色々な人との重なりが生まれた。そこを描きたかったんですよね。
──では、ここでの“あなた”とは?
色んな風に解釈できると思います。私から見たら“音楽”という意味にもなるし、ライヴで歌えば“ファンのみんな”の事だし、恋人と2人で口ずさめば本当に二人きりの世界観になるし、広い意味で色々に受け止めて貰えたらなと思います。
──ミュージシャン同士というのもありますね?
そうなんです。この曲をライヴでやると、楽器が語っているように聴こえてくるんですよね。バンド・メンバーも毎回、リハとは全然違う事をやるし、アドリブでガンガンぶつけてくる。だから、“あなた”と“私”は、“バンド”と“私”でもあるし、“楽器”と“私の声”とも捉えられる。歌うシチュエーションによって、本当にたくさんの“あなた”と“私”が生まれてくる曲なんです。たくさんの出会いがあった、この10年間そのものとも言える1曲です。
──「LOVE ME」は、なんだかとても、おのろけソングのような気がしましたが。
実は、この曲は、アルバム制作中の男性スタッフとの恋愛トークがキッカケとなって生まれた曲なんです。女の子って“もういい”とよく言うでしょう。それが男性には理解できない、と。いきなり“もういい”と怒り出して、何か気に障る事があったのなら謝るからと言うと“もういいって言ってるでしょ”とか返ってくる。かと言って、そのまま放っておくと“私の事なんか少しも考えてくれてない”とか言う。あの“もういい”って言うのは、一体どんな意味なんや、どうフォローしたらええのん?って。
──次の日、彼がどう出てくるか、そのあたりがポイントでしょうかねぇ(笑)。
そうですよね、彼の次の日の態度ですよね。“もういい”って突き返した時に、どれだけ愛情を返してくれるか、それを待っている。本当に放っておいてほしいわけじゃない。だから、“もういい”と言った出来事にも触れながら、上手に笑わせてくれたりとか、こちらの機嫌が良くなるようにうまく運んでほしいんですよね。だけど、その心理をどれだけ説明しても、男性スタッフ全員が“さっぱりわからん。それ、ただの我儘やろ”って。“我儘だとわかってんねんけど、それを理解して受け止めてほしいねん”と、1時間くらいやり合ったんですけど、結局、ずっとすれ違いっぱなし(笑)。その会話をそのまま歌詞にしたのがこの曲なんです。今回のアルバム制作中の思い出の1曲でもありますね。私の中では、“それでもわかってね”と、おねだりしているような曲なんですけど(笑)。
──世の男女のもめ事を解決する1曲になりそうですね。
答えが出たような出ないような、ですけどね(笑)。