西田昌史(EARTHSHAKER)、寺田恵子(SHOW-YA)、二井原実(LOUDNESS)。日本を代表する3大ハードロックバンドのヴォーカリストが集結、J-ROCKの名曲をカヴァーするという夢のようなユニット。その名も“西寺実”。
強烈な個性を放つ三人三様のヴォーカルが、溶け合い、ぶつかり合い、大音量で脳天を刺激。リード・ヴォーカルがめまぐるしく入れ替わり、縦横無尽に動き回る3つの声。この3人でなければゼッタイになし得ない緻密で複雑なコーラス・ワーク。
しかも3人同時の一発録り。レコーディングはさぞかし緊迫したものに…と思いきや、“こんなに笑ったレコーディングは生まれて初めて”だったとか。3人揃ってのインタビューも笑いの絶えないものに…。
──まずは、ユニット結成の経緯からお聞きしたいのですが。
二井原:そもそもは、このお姉さん(寺田を指して)のラジオ番組にゲストで呼ばれてね。
寺田:そうなの。私がネット配信のラジオ番組をやってるんだけど、一昨年のクリスマスの時にミノルちゃんとマーシーにゲストで来てもらったのね。3人でギター弾いて即興で歌ったりして、すっごく面白かったの。それで、番組でネーミングを募集したら、ファンの子から“西寺実”という投稿があって、“西寺実!いいじゃんコレ!って。
去年の私の誕生日の時に、バースデー・アコースティック・ライヴをやって、その時初めて3人揃って人前で演奏したんだけど。そこからだよね、ユニットの形になったのは。だから、最初はアコースティック・ユニットのはずだったんですよ。
二井原:そうそう、アコースティック!気楽なアコースティックのはずやったんや、最初は。あんまり作りこまないで、もっとこう、なんちゅうのかな、こう、その、なんていうか・・・あの、なんて言うんですか?
──は?
西田:あんたが聞いてどーすんの(爆笑)。
二井原:いや、その、もっとザックリしたラフな感じでね、やるんかと思ってたのよ(笑)。
寺田:そうだよね。3人でギターをジャカジャカやって歌う。ザクザクしたアコーティック・ロックっていうイメージだったのよね、最初は。それが、プロデューサーの笹路さん(笹路正徳)を交えて、歌ったり音を出したりしていくうちに、どんどん方向が…。
西田:派手になっていったんや(笑)。
寺田:気がついたら、音も歌もヴィジュアルもド派手なことになってた(笑)。
二井原:あかんがな、デビュー・アルバムから初心を忘れたら(爆笑)。
──レコーディングはどんな風に?
西田:今回は、僕らが何十年間経験してきたレコーディングとはまるっきし違ったね。
寺田:そうだよね。普通はね、楽器パートのレコーディングの時は、ヴォーカリストはガイド・ヴォーカルとして歌う程度なんですよね。だいたい、この段階だと歌詞が出来ていない場合が多いから、ガイド・ヴォーカルは仮歌でラララだったり、適当な歌詞を入れて歌ったりするんですけど。それで、楽器パートは、普通はドンカマ(ガイドリズム)のカッカッっていうクリックに合わせて演奏していくんですけど、今回は、ドンカマなしでヴォーカルに合わせて演奏するということになって。カヴァーだから、当然歌詞もあるわけで、だから、仮歌(ガイドヴォーカル)なんだけど、本気で歌ってくれって。要するに、ライヴと同じ状態ってことよね。
二井原:ヘビーメタルとは全く別物のレコーディングやったね。ヘビーメタルは、レコーディングの時に細かい作業するんですよ、1つ1つの音をガッチリ作りこむから。今回はホントにその真逆で、せーので全員一斉に演奏して一発録り。そういう事、ヘビーメタルでは絶対あり得ないからね。
──ヴォーカルも一発録り?
寺田:歌もね、3人同時に一発録りだったんですよ。直しが効かない一発録りの方が勢いが出るし、より力強くなるからそれを活かしたい。だから、3人同時に歌ってくれというプロデューサーの意向で。
とにかくコーラスが大変だった。悩んだよねぇ。3人とも、元々コーラス・パートというのに慣れてないでしょう(笑)。なのに、複雑なコーラス・アレンジばっかりで。しかも、それを3人同時に歌えって、ねぇ。
二井原:ブースは違うんだけど、3人同時にスタジオに入ってね。せーので一斉に歌うなんて、そんなレコーディング初めてやからね。
寺田:ヘッドホンからは他の人の声も聴こえてきて、そこに自分のコーラスのフレーズを乗せて歌う。3人同時の一発録りだから、間違えたらいけないと思うから緊張するし。
西田:長いこと音楽やってきたけど、こんなに緊張したレコーディングはないね(笑)。
二井原:でも、すっごく面白いコーラスになったと思うよ。ハモってるのに、それぞれの声が見えてるでしょう。僕ら3人ともヴォーカリストだから、声が立つんですね。だから、3人だけなのに音圧がすごくて。これはね、楽器の人がハモるのとは違うね。
寺田:混ざるのか混ざらないのかギリギリのラインでやってるもんね。
二井原:ハモったら普通、誰が誰だかわからなくなるでしょう。それがキッチリ聴こえてくる。コーラスしてんのに、それぞれの声の存在感がある。こういうコーラスは他にはないと思うわ。
西田:そうだね。初めての事ばっかりで、勉強した事もたくさんあるけど、でも、やっぱり、これまでの経験があったからこそできた事だと思う。その経験がなかったら作れなかったよね。他の人には絶対にできない。
──それではレコーディング中はかなり緊迫したムードに?
西田:いやいや、それがね、あんなに笑ったレコーディングはないよ。とにかく、よく笑ったわ(笑)。この人がね(二井原を指して)、ずーっと喋ってるんですよ。
寺田:そうなの。ミノルちゃんがね、とにかくずーっと喋ってるの。レコーディング・ブースに入ってからも喋り続けてる。ほんとによくこんなに喋ることあるなぁっていうくらい、ずーっと喋ってるの(笑)。で、録音が始まっても、歌い出だしの寸前まで喋ってる。それがヘッドホンを通して全部聞こえてくるから、もう、おかしくておかしくて。
西田:歌いこんで喉を痛めるんじゃなくて、笑いすぎで喉を痛めるような状況やったね、あれは(笑)。
二井原:ブースに入るとお互いの顔は見えヘンやろ。そやから、ヘッドホンを通して、みんなに語りかけとったわけよ。
──チームワークを高めようと?お気遣いだったわけですか(笑)。
二井原:そうそうそうそう。お気遣いです、ハイ。
西田:よう言うわ。あはははは(爆笑)
寺田:確かによく言えばお気遣いだわね。お陰様でとにかく楽しいレコーディングだったわ。あんなに笑うレコーディングは生まれて初めて。メンバーだけじゃなくて、スタジオ中みんなずっと笑ってたよね。
──ヴィジュアルのイメージは、どなたのアイデアなんですか?
寺田:最初に何を着たい?って聞かれて、私が花魁のカッコをしたいって言ったの。そしたら、それが採用になって、あれよあれよという間に、こういう事になったんです(笑)。
二井原:笹路さんの中でも、こうしたい、ああしたいっていうのがどんどん出てきたんでしょうね。花魁のカッコから始まって、そこから江戸時代という設定が生まれて、ストーリー性を持たせようということになって。
寺田:私が花魁の“アゲハ”で。ミノルちゃんは“紀伊国屋実”というお金持ちで、マーシーは“龍(たつ)”という町芝居の人気役者。
西田:そうそう、レコーディング中にだんだん出来上がっていった。
──「あゝ無情」のPVもその流れで?
二井原:花魁のアゲハを巡って男2人がすったもんだするというストーリー仕立てになってまして…。
寺田:色々な人の感性で作り上げたかったから、PVに関しては監督さんにお任せしてたんですけど。振付もやっちゃったしね。
西田:あっはははは(笑)。やっちゃったねぇ。
──あれはホントにビックリしました。
二井原:僕もホンマにビックリしました(笑)。
西田:もう、必死やったもんなぁ(爆笑)。
二井原:撮影当日の朝になって“これ一応見といてください”って、振付映像がデータで送られてきたんですよ。
寺田:でもね、その段階では、やってもやなくてもいいですからっていう事だったの。それが、スタジオに入ったら振付の先生が来てて、“はい、それじゃあ、練習始めます”って。私は踊ってもね、そんなにイメージは崩れないけど、この2人に“振付”っていうのはねぇ。二井原実と西田昌史にここまでやらせていいのかって。だから、どうしてもイヤだったら、ミノルちゃんとマーシーは踊らなくていいよって言ってたの。そしたら、けっこうノリノリでね(爆笑)。
二井原:いやいや、おもろかったよ(笑)。しっかし、マーシーは覚えるの早かったな。
寺田:いちばん早かったね。
西田:あ、俺、普段から踊ってるから。
寺田:え?
西田:エアロビクスとかやってるから(笑)。
寺田:エアロビクス〜〜〜!?
二井原:なんなの、あんた(爆笑)。
──ライヴも、このヴィジュアル・イメージのままで?
二井原:ライヴもね、弁士の兄ちゃんがいて、口上を述べて、そこからステージが始まるんですよ。曲間もね、普通ならMCじゃないですか。そこも弁士が出てくるんです。
──踊りもアリですか?
二井原:やります、やります。思いっきりやりますよ。
寺田:踊り以上のこともやってくれますから(笑)。
西田:言わんでいいってことも言いますから(爆笑)。
──当初はラフなアコースティック・ユニットのはずだったのに、大展開になってきましたね。
寺田:ほんとにね。始めてみたら、次々と色んな人が興味を持ってくれて、どんどん膨らんでいって。
二井原:そうそうそう。そのうち、映画化の話まで出てくると思いますよ、花魁アゲハを主人公にした(爆笑)。
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