──c/wの「Keep Crawling」も、世界観としては共通しているように感じますが?
そうですね。やっぱり戦っている感じとか、もがいている感じが、今の時代に合っている気がするし、私らしくもあると思うんです。“100%ハッピー”みたいな曲は、今の私には受け入れられないし。
──“Crawl”というと、水泳の“クロール”が真っ先に思い浮かびますが、元々の意味は“這う”ですよね?
そうです。匍匐(ほふく)前進じゃないですけど、這って進むという意味ですね。
──「Keep Crawling」・・・這い続けましょうってこと?
そう、とにかく進もうということですね。例え転んでも、そのまま前に進もうっていう。「冷たい雨」もそうなんですけど、要するに、“完全に止まる”という状態にしたくない。立ち止まったり、振り返ったりすることも人生には必要ですけど、私にとって、去年がそんな1年だったので、今年は、何があっても進んでいこう、少しずつでも進んでいこうと思っていて、その気持ちがこの2曲に表れていると思います。
──作曲は、ギターですか?
発想する時は、頭の中でメロディーとかコードが聴こえるんですよね。それをデモテープにする段階で初めて楽器を使うんですけど。ギターの場合もあれば、鍵盤の時もあります。「冷たい雨」は、ギターでしたね。
──鼻唄のように、歌いながら書いていくんですか?
書いてる時は歌いながらですよ。歌ってみないと、しっくりこないし。
──詞とメロディーが同時進行というスタイルは、ずっと変わらない?
最初からずっとそうですね。私は、10歳くらいの時から、毎日ノートに何か書いていたんですよね。音楽も好きだったんですけど、散文詩のようなものを書くのがすごく好きで、ほんとに毎日、何か書いていたんです。毎日、ノート1ページで終わるんですけど、その1ページで起承転結をつけてストーリーを書く。そうすると、たまに歌詞みたいな体栽になることもあって。だから、書こうと思えば、詞だけ書くということもできるんですけど、これまでに、そういう作り方をして得したことがないんです。詞だけ書いてあとからメロディーをつける場合、ストーリーの山場とメロディーのハイライトが一致しなくなったり。そこで大幅修正して、またやり直して…という進め方をすると、そこで失速してしまうし、すごく面倒臭いんですよね。でも同時に書いていくと、微調整しながら、どんどん書き進められるから、やっぱり、同時進行の方が早いんですよね。
──逆に曲先というのは?
たぶん、それもできると思うんですけど、私は、メロディーというのは、そこに言葉が乗ることで、より強い訴求力を持つと思っているんです。メロディーだけで♪ラララ〜と歌っていても、あまりピンと来ない。でも、しかるべき言葉が乗っかった時に、すごくグっとくるんですよね。だから、私はあまりインストゥルメンタルは書かないんですけど。やっぱり、メロディーと歌詞があって成立するという書き方が好きだし、それが自分にとって一番嘘のない作り方だという気がします。
──“うたまっぷ”には、自作歌詞の投稿コーナーもあるのですが、日々、投稿しているみなさんにアドバイスをお願いします。BONNIE PINKさんが歌詞を書かれるとき、信条とされていることはありますか?
ビジュアライズしやすい歌詞と言うか、情景があって、映像が浮かぶ歌詞というのを心掛けています。全く映像が浮かばない歌詞だと、感情移入もしづらいんじゃないかと思うんです。例えば、こんな子がこういう場所にいてこういう角度で立っているとか。どんな年齢で、どんな職業なのか。学生なのかOLなのかとか。そういう事がわかる描写があると、手助けになりますよね。その歌の主人公像が見えてくる。そうすると、ぐっと歌の中に入っていけるし、より面白い歌詞になる。映像が見える歌詞というのは、倍のインパクトを与えられると思うんです。
──確かにそうですね、でも、最近は、自分の心情ばかりを書いた歌詞が増えているようにも感じますが?
自分の気持ちを書くというのは、確かに書き易いですからね。私自身も、一人で家に籠って書いていると、どうしても、心情ばかりになってしまって、情景描写が少なくなってしまう事があるんです。そういう時は、意図的に目に映るものを歌詞に織り込んでみるんですよ。窓の外に見える景色でもいいし、部屋の中の物でもいいんですけど、目についたものを歌詞に織り込んでみるんです。
──感情表現だけに陥ってきたら、そこで何らかの転換をする、と?
そうすると、その単語が弾みになって、次の展回が見えてきたりするんですよね。そういう工夫は、自分なりのコツなのかもしれないですね。でも、逆に、情景描写だけに終わってしまう歌詞というのも良くないと思うんですけどね。それって、絵日記じゃん!みたいなね。そのバランスなんだと思うんですよね、良い歌詞と言うのは。言葉のリズム感とか、情景が目に浮かぶかというのがすごく大事なポイントだと思います。
──2012年は、今作「冷たい雨」でスタートとなったわけですが、今年はどんな抱負をお持ちですか?
昨年は、アコースティック・アレンジのセルフカヴァー・アルバムをリリースしたんですけど、今年は、オリジナル・アルバムを制作したいと思っています。既に曲も書き始めているんですけど。
──どんなアルバムになりそうですか?
去年よりは、力強い自分を表現していけたらいいなと思っています。去年は、私自身も弱っていたし、たぶん、多くの人が弱っていたと思うんですけど、今年は、底力を感じて貰えるような、そういう作品を作っていきたいと思っています。人間は、どんどん強くなっていかないといけないし、去年より強くなれていたらいいなと思うし、そこを表現できたらいいなと思っています。楽しみにしていてくださいね。