──これから、日本でどんな事を?
僕は使命感を持っている事があるんです。ラテン音楽をもっともっと日本に浸透させていきたいんですよ。本当に素晴らしい音楽がたくさん、たくさんあるんです。だけど、日本のCDショップの洋楽コーナーは、アメリカ・イギリスのアーティストばかり。スペインのCDなんてほんとに僅かしか置かれていない。レゲエのコーナーはあっても、ラテンのコーナーはない。これっておかしいと思うんです。ラテン音楽と言うのは、中南米の他にイタリアとスペインも含まれるんですけど、ほとんどが3つのコードで出来ているんです。すごく単純なんです。だけど、激しさと悲しさを併せ持ったあの独特なメロディーは、決して、他の国の人には作れない。日本で知られていない新鮮な音楽がまだまだ隠れているんですよね。
──ロベルトさんが日本に伝えたい、ラテン音楽の一番の魅力とは何ですか?
一言で言うのは本当に難しいんだけど、とにかく、体感して欲しいって事ですね。一口にラテン音楽と言っても、その国、その地方で全然違う。それぞれ独特な音楽を持っているんです。
──それは、ぞれぞれの土地が生んだものなんでしょうか。
それはありますよね。例えば、タンゴの発祥で言えば、元々はブエノスアイレスという港町の荒らくれ男とそれを相手にする娼婦達の音楽だった。“タンゴは売春宿への序曲”なんて言われていたくらいで、上流階級の人達は決して聴かない音楽だった。タンゴには色々な踊りがありますけど、ある時は、踊りに乗じて人を殺したりもしていたんですよ。そういう背景を持った音楽だから、怨みつらみ、嫉妬心や復讐心など、路頭の嘆きがいっぱい詰まっている。そのドラマが本当に魅力的なんです。
──タンゴは、あれだけリズムが強い音楽なのに、打楽器を使っていないんですよね?
そうなんです。それも面白い所ですよね。ズンチャッチャツチャッ〜っていうあの独特のリズムは、ピアノとコントラバスが引っ張っていきます。そこにバンドネオンも加わって、打楽器は1つも入っていないのに、バンド全体として、もの凄いリズムが生まれるんです。
──それはラテン音楽に共通している事?
いやいや、打楽器なしと言うのはタンゴだけですね。
──日本の感覚だと、歌手と言うのは、自分の持ち歌があって、その楽曲を如何にヒットさせるかという事になるわけですが、ラテン音楽の世界も同じ?
それが全く違うんです。タンゴにしろ、ボレロにしろ、マリアッチにしろ、いずれも古典音楽なんですね。○○さんのヒット曲と言うわけではない。誰かの持ち歌というのはないんです。誰もが知っている有名な古典の数々を、如何に自分のスタイルで表現するか。それがラテンなんです。いくら上手に歌えても、そこに自分のスタイルがなかったら、全く評価されません。
──アレンジもそうですか?
そうそう、楽団の場合はアレンジで勝負です。アレンジとそれを如何に弾くか。うちの楽団は違うんだよ、こうなんだよって言うのがないとダメなんですよ。
──例えば、クラシックのオーケストラやオペラ、演劇に置き換えたらわかりやすいでしょうか。誰もが知っている交響曲を、どの楽団が演奏するか、更に誰が指揮をするかで良し悪しが決まってくるとか。
そうそう、まさしく、そういう楽しみ方なんです。同じ楽曲でも、どの楽団が演奏し誰が歌ったものかで好みが分かれる。更には、同じ歌手の同じ歌でも、19XX年の○○公演の歌が最高だったとか。そういう楽しみ方なんですね。例えば、同じ小説を原作にしていても、監督が異なれば、全く違う映画作品になるでしょう。演劇なんかもそうですよね。ラテン音楽も同じなんです。そういう音楽の楽しみ方と言うのも知って欲しいんです。
──そうしたラテンの魅力が日本ではまだまだ知られていないと?
そうなんです。全然伝わっていない。そういうマイナーな作品を仕入れるCDショップもどんどん少なくなって行くから、ますます市場が小さくなっていく。そうすると更に情報が少なくなる。この悪循環を断ち切って、ラテン音楽の間口を如何に広げて行くか、それが僕の使命だと思って、頑張っていきたいと思っているんです。
──ロベルトさん自身の成功だけでなく、中南米のアーティストのCDが日本で流通する土壌を作りたい?
スペイン語が日本で馴染むのかとか、色々難しい問題はあると思うんですけど、それが一番大きな目標ですね。
──ロベルトさんの日本での活動が、その第一歩になるかと思うのですが、日本でのデビュー曲「ダメウンベソ」については、いかがですか?
「ダメウンベソ」は、オリジナル曲なんです。“ダメ”は“与えて”、“ウン・ベソ”は“1つのキスを”と言う意味。キスを与えて・・・“キスをちょうだい”というタイトルです。
──作詞は、阿木耀子さんですね?
阿木さんとは、以前に一度、仕事でご一緒した事があって、そんなご縁でお願いしました。元々はスペイン語の歌詞がついていて、女の子にイカれてしまってるんだけど、全くつれなくて、どうしてくれるの・・・みたいな歌詞だったんです。♪今夜の全てを君に捧げる だって君は僕の女王様だからさ〜とか、直訳するとそんな言葉が並んでいたんですけど、阿木さんの詞は、格段に違いますね。もっとずっとエロくなりました。♪淫らな夢に出てくるあなた 濡れた唇がとても悩ましい〜なんて、本当に素晴らしいフレーズですよね。すっごく色っぽい。
──レコーディングではご苦労はありましたか?
やっぱり、喋っている言語というのが、歌に大きく影響するんですよね。日本語のア・イ・ウ・エ・オとスペイン語の発声は全然違う。発音しているポジションが全然違うんです。ウ母音とか、日本語の母音とは全く違う。アルゼンチンに行ったばかりの頃は、これはマズイと思って、徹底的に発音を直したんですけど、今回は、逆に日本語の発音に慣れていないから、日本語の発音のポジションに直すのがちょっと大変でしたね。
──向こうと勝手が違って戸惑った事とか?
「ダメウンベソ」を1曲録音した時間で、アルゼンチンだったら、アルバムが2枚録音できます(笑)。タンゴのレコーディングと言うのは、昔から録り直しナシの“一発録り”がルールなんです。昔、SPレコードの時代に、お金がないから録り直しができなかった。その名残で、今でも伝統的に、明るさまに歌詞が間違っていようが、音程が外れていようが、録り直しはしないという文化なんです。だから、今回のレコーディングでは、何十回も歌い直して、こんなに時間をかけて貰って・・・自己嫌悪に陥りました。
──昨年6月に「ダメウンベソ」がリリースとなり、ロベルトさんご自身への注目も高まっていますが?
「ダメウンベソ」のこのリズムに日本語を乗せたのは、厳密に言えば、初めてだと思います。非常に乗れるタイプの曲。お酒もどんどん進む。そういう歌ですよね。どんどん飲んで、どんどん踊ってほしいと思います。
──どんな楽しみ方をして貰いたいですか?
「ダメウンベソ」の歌詞のもう1つの楽しい所は、四字熟語なんですよね。以心伝心、一心同体、一心不乱、一喜一憂・・・と四字熟語がたくさん出て来るんです。ここを、どんどん替え歌にしてほしなと思って。子供たちがふざけて替え歌にしてくれたらいいなって思います。そんな遊びからでも、タンゴに触れるキッカケになってくれたらうれしいですね。とにかく、一人でも多くの人にラテン音楽の素晴らしさを知って貰いたんです。
──「ダメウンベソ」がリリースとなり、色んな所で色んな人と出会う事。それが第一歩でしょうか?
そうですね。「ダメウンベソ」が第一歩ですね。これから、日本全国どこへでも歌いに行きますよ〜!まずは、「ダメウンベソ」を聴いてください。