──続く「少年」も、強いメッセージを感じますが。
優:子供の頃には見えなかったものが今は見えてる。大人になるのは、決して悪い事じゃないって言う、まさに10周年にぴったりのテーマだと思うんです。子供の頃は、大人になったら、どんどん楽しい事がなくなって、色々な事をあきらめなくちゃいけない…そんな風に思っていたんですけど、全然そんな事ないなって。今の私達が、10年前の自分達に対して歌っている曲です。同時に、今の子供達にも言ってあげたい事でもあるんですけど。それをサラリと明るく歌いたかったので、このメロディーに合わせました。
──1970年代の女性フォーク・デュオのような、爽やかなメロディーとアレンジですよね。
梨生:こういう曲調は、初めてのパターンですね。2008年に『凪唄』というカヴァー・アルバムを作ったんですけど、それがヒントになりました。ふだん歌わないタイプの曲もカヴァーして、それでも、ちゃんと、やなわらばーの色が出せたんですよね。その経験から、可能性がすごく広がって、こういうスリー・フィンガーの爽やかな感じの曲も作ってみようと取り組んだんですけど。どんどんアイデアが湧いてきて、すぐに出来あがったんです。山弦の小倉博和さんにアレンジをお願いして、アコースティック・ギターも弾いていただいているんですけど、イメージ通りの爽やかなサウンドになりました。
──ヴォーカル・スタイルも随分違いますね?
梨生:自分でも“ブリっ子してる”と思うんですけどね(笑)。でも、この曲を通して、ヴォーカルのバリエーションも広がりました。ライヴは、私達ふたりだけの事が多いので、この世界観を崩さずに、いかにライヴで表現するかというのも楽しみです。
──3曲目は、アルバム・タイトルにも繋がっている「ゆくい」ですね。“ゆくい”というのは?
梨生:石垣の言葉で“休憩”とか“ひと休み”という意味なんですね。最近では、若い子達が、一服する(煙草を吸う)という意味で“ゆくってくる”なんでいう使い方もしてますけど、本来の意味は“ひと休みしよう”なんです。
──“おつかれさま”という労い(ねぎらい)の歌ですが、誰に向けて、歌われているのでしょうか?
優:元々は、新橋のお父さん達に向けて、作り始めたんですよ(笑)。私達は、新橋で路上ライヴをやっていて、周辺の居酒屋さんで歌わせて貰ったりもしていたので、お父さん世代と接する機会が多かったんですね。会社でも頭下げて、家に帰ると娘に邪険者扱いされ、奥さんには怒られて・・・俺の居場所なんかどこにもないんだよ〜なんて言うお父さんがいっぱいいて。身を削って、家族のために働いているのに、居場所がないなんて、本当に切なくて・・・そういうお父さん達に“お疲れさま〜”と、声をかけてあげたいなと思って作った曲だったんです。でも、よくよく考えてみたら、みんな頑張ってるなって。お母さんも、子供もみんな頑張ってる。だから、全ての人に向かって“お疲れさま〜”と言ってる歌ですね。“頑張って”じゃなくて、“お疲れさま”と言いたいんです。
──歌詞には、“ゆくい”という言葉は出てこないですよね?
梨生:この曲は、最後の最後までタイトルが決まらなくて。「おつかれ」でも「ありがとう」でもないし、もっと、私達の気持ちをこめた言葉が見つからないかなって。そんな時、優ちゃんが“ゆくいって何だっけ?”と言いだして、“あ〜、それそれ!”って。いい言葉でしょう、ゆくいって。アルバム全体を通しても、感じてほしい言葉だなと思って、最終的にアルバム・タイトルも『ゆくい歌』にしました。
──続く「月」は、ダークでミステリアスですね。これまでのやなわらばーのイメージとは随分かけ離れた印象ですが。
梨生:これまではずっと、前向きな曲が多くて、陰の部分を見せる事はあまりなかったんですよね。初めてかな、こんなに陰の部分を出したのは。これも、今だからこそできる事ですね。
優:人は誰でも、陰と陽の両方を持っていて、陰の自分が強く引っ張る事もあれば、陽の自分がそれを引き戻してくれたり、そうやって揺れ動いて生きてるんだと思うんです。不安定な時と言うのは、たくさんの人に囲まれていたり、愛されていても、孤独感にさいなまれたりするし、葛藤を続けていると弱ってもくる。だけど、そういう部分こそが人間的だし、人間味があると思うし、そういう部分を表現したくて書いた曲ですね。
梨生:ライヴでは、1年以上歌ってきた曲なんですけど、ライヴの雰囲気のまま、スケール感を出したサウンドに仕上げる事ができました。
──一転して、次の「なんとかなるさ」は、いかにも沖縄・石垣らしい曲ですねぇ。
梨生:いきなり陽気でしょう(笑)。もう、石垣の飲み会そのままです。酔っぱらって、おじぃ達が三線を弾き出したりする、その雰囲気のまんまの曲ですね。
優:実は8年くらい前に作って、私達も忘れていた曲だったんですよね。当時、大阪で島人の友達と集まってはよく歌ってたんですけど、すっかり忘れてて。
梨生:スタッフさんが“こんな曲もあったじゃない”と引っ張り出してきてくれて、改めて聴いてみたら、アルバムのテーマにピッタリだなって。
優:8年前の雰囲気を残しつつ、お囃子は島の先輩方に手伝って貰って、いかにも沖縄・石垣らしい曲になりました。
梨生:ライヴではまだ一度もやった事がないんですけど、このままの雰囲気で、お客さんと一緒に盛り上がりたいですね。
──続く「曇りのち晴れ」も、フォーク調のナンバーですね。
梨生:こういうリズムも、オリジナル曲では珍しいと思います。色々なイメージが湧くメロディーなので、最初は、全く違う歌詞をつけていたんですけど、いくつか書き直して、わかりやすいメッセージになったと思います。
優:雨、晴れ、曇り…お天気のように人の気分も変わりますよね。でも、明るい時も暗い時も、その時にしか湧かない感情というのがあると思うんですよね。雨の日でも、曇りでも、その時にできる事というのは必ずあると思うから、凹んだら凹んだで、それでいいと思うんですよ。凹まないと、次も観えてこないと思うし。そんなメッセージですね。
──今回のアルバムでは、唯一のラヴソングが「鳳仙花」ですね。この曲だけ、西脇唯さんの作詞ですが?
梨生:西脇唯さんは、私達のデビュー当時からの作詞の先生なんです。だから、私達の事をよくわかってくれていて。
優:メロディーを持っていって、私達が感じている雰囲気というのを一生懸命伝えて、書いていただいたんですけど、ほんとにピッタリ合う歌詞で、気持ちがひとつになった感じがしました。
──かつての恋人を想う曲ですが、♪コンビニであなたの分も買い物した〜とか、身近な描写もあり、それがとても切なさを呼びますね。
優:歌っていても、すごく情景が浮かんでくる曲なんですよね。別れてしまったあとで、こうしたかったと過去を振り返る歌なので、マイクも音質が少し古く聴こえるものを使っているんです。アレンジでは、バイオリンが1本だけ入っているんですけど、その旋律が、歌詞に寄り添って、歌詞を支えているようで、より情景が見えてくるアレンジになったと思います。
──「夏空」は、一見、爽やかな夏の景色を描写しているようですが?
梨生:どこの国にも、悲しい歴史というのはあって、それをずっと引きずっていても前に進めないから、だから、消せなくてもいいから、ちょっとだけでも軽くしてほしいなという願いを書いた曲ですね。
優:歌詞の中にも出て来る“風車(カジマヤー)”というのは、97歳の長寿のおばあちゃんを祝うお祭りの事でもあるんですよね。長く生きてきたおばあちゃんは、色んな歴史を見てきたわけで、風車の風景を描きながら、そういう意味も含んでいたり、石垣の景色を歌っているようでいて、実は、それだけではない曲です。
──そういう意味では「夏空」は、ラストの「平和の歌」へと繋がっていきますね。「平和の歌」は、非常にストレートなタイトルですが。
梨生:“平和”というのは、敢えて今まで歌ってこなかったテーマです。考えれば考えるほど深すぎて答えが出ないし、答えが出ないから、触れずにきたんですけど。でも、私達は、小さい頃から授業で、実際の沖縄戦の映像、人が死んでいく映像も見てきているし、おじいちゃん、おばあちゃん達から戦争体験も聴いている。だから、尚更、平和を願う気持ちは強くて、いつかその想いを歌にしたいとずっと思ってきたんですけど、なかなか書けなかったんですよね。
──10年という活動期間を経て、心境の変化が?
優:最初は歌うのが楽しいだけでただの自己満足だったんです。それが、ライヴを重ねるうちに、気持ちを伝えたいなとか、悲しいとかうれしいとか一緒に共有できたらいいなという風に、気持ちが大きく変わって、歌を続けたいと強く思うようになったんです。
梨生:私は、元々、裏方志望だったから、最初は優ちゃんのお手伝いをしているような感覚だったんです。でも、続けていくうちに、いいハーモニーだねと言っていただいたり、泣いてくれる人がいたりして、ビックリして。歌で、誰かの心を癒したり、心を動かしたりできるんだなって。自分にも、何かできる事があるんだと感じてきて、ちゃんと歌と向き合うようになったんです。歌というのは、自然と耳から入ってくるものだから、すごく力を持っているなと思います。
──8分近い大作となりましたが、楽曲作りはどんな風に?
梨生:ふたりで本当にたくさん話をしながら作っていきました。これが平和だという正解はないですよね。ある人にとっては正義と思える事も、ある人にとっては不愉快だという事もあるし。結局、大きく考えるから答えが出ないんだなって思ったんです。もっともっと身近な小さい単位で考えればいいんだって。家族とか友達とか、自分の身近にいる人。その人を大切に思う気持ち、その人を守りたいと思う気持ち。そこから全部繋がっていくんじゃないかって。
優:この曲に対しても、賛否両論いろいろあると思うんです。反論があったとしても、それはそれでいい。聴いてくれた人が、反論、反発でもいいから、平和について意識を持つ、そのキッカケになったらいいなって。ほんの少しでも、平和について考えたて貰えたら、それが最初の一歩だと思うから。大きくじゃなくて、まずは身近な所から、歌詞を捉えてほしいなと思います。
──「平和の歌」というタイトルをつけた時点で、覚悟を決め、意思表示をしたという事ですね?
梨生:そうですね。「平和の歌」というタイトルだけで、構える人もいると思うんですけど、ほんとに身近な所から考えていこうよって。音楽で何ができるのか、それはわからないけれど、でも、私達は信じて歌う事しかできないから。これからも、そう信じて、歌い続けていきたいと思います。
『ゆくい歌』リリース記念ミニライブ
(握手&サイン入りライナーノーツプレゼント会)
■12/12(日)
12:00 [那覇]サンエー那覇メインプレイス2F シネマQ前特設会場
16:00 [那覇]那覇OPA1F広場
■12/19(日)
14:00 [西宮]阪急西宮ガーデンズ4F スカイガーデン
18:30 [大阪]あべのHoop1F オープンエアプラザ
COREDO室町PRESENTS やなわらばーChristmas Premium Live
■12/24(金) 日本橋三井ホール
18:00 ディナータイム
19:30 ライヴ
[料金]¥8,700(税込/ドリンク代別途)
※ビュッフェスタイル食事・来場者限定オリジナルグッズつき。
※ビュッフェスタイル食事はライヴ開演の19:30までとなります。
November 19, 2010