|
||||||||||||
──今回もインストが2曲収録されていますが、「半径0m」は、今までの楽曲には無かったリズムですね。
桜井:新ジャンルに挑戦したいっていうのもあったり。ドラムンベースと言ってドラムでよくやる感じなんですけど、倍速というかテンポが早くなるとどうなるかって考えて。まず、ひろむが叩けなかったですけどね(笑)。
伊藤:叩けたよ(笑)。打ち込みも若干入っているので、僕の手と機械とが融合しています。同じメトロノームの中でノリがガラッと変わるウネリみたいなのを表現したいなって。それが出来たのはスゴク良かったなと思いますね。
もう一方のインストの「光」は、よりカッコイイ曲をと考えて、パーカッションとギター以外の楽器を足しながら作りこんでいきました。それぞれのパートが決まった時に、皆一斉に一発録りでやろうってなったんです。それで何回か繰り返して、“このテイクやなって”僕たちが納得できた演奏を収録しました。
──「東京」は“満員電車”“ホームレス”という言葉が象徴的ですが、歌詞の発想は、どんなところから?
桜井:「東京」という曲は1年ぐらい前に出来てたんです。でも、歌詞とメロディを見直したら、1年前とはやっぱり気持ちが変わってたんで。“すっかり満員電車に慣れた僕”っていうところから始まるんですけど、1年前はそこまで慣れてなかったんです。当時は人とぶつかると“チェッ!”って思ったりしましたしね。それが最近無くなってきたなぁっていう自分の中の変化があったので、もう1回洗いなおして。サビはぶれてなかったんで、サビのためのBメロはどうするかとか手直しして出来上がった曲です。
上京してバイトを始めた頃は、これまで経験したことの無い通勤時の満員電車が楽しかったこともありました。でも段々苦しくなってきて、自分の感覚を遮断する技術を身に付けだして。ほとんどの人が、そんな風に自分の感性を押し殺して過ごしているのかなと考えてたら、自分の感情を押し殺すことが立派な社会人なのか?嫌なことがあっても笑っていられるのが強いってことなのか?それは弱くなったっていうことなんじゃないかって思えてきて。“強さ弱さって何だ?”“社会に出て一人前って何だ?”っていうことが、東京に来て、初めに感じたことなので、それを1つの曲に出来たかなと。
伊藤:東京って、どこか遮断しなければ生活していけないんですよ。泣きたい時も笑えるというか、例えば仕事で心に思ってもいないのに謝らなければならないとか、そういうジレンマって大きいと思うんです。そうなった時に、どう生きていったらいいのかっていう事を考える一端になる曲だなと思いますね。
──「家族写真」の曲作りはどのように?
桜井:1年ぐらい前から「家族写真」というタイトルで曲を作ってたんですけど、爆発的なメロディとか歌詞が生まれずに寝かしていたんです。それで、夏ごろから作り始めて出来た曲ですね。遊園地という設定なんですけど、実際には僕は家族で観覧車に乗ったことは無いんです。遊園地の入り口で撮った写真なんていうのも無いんですね。そういう時に感じることって、こんなことじゃないかっていう想像から歌詞を作りました。「目を閉じて見えるモノ」に比べると詩的な言い方が残った曲で、個人的には“シアワセは夕焼けに赤くにじんでた”というフレーズが気に入ってます。
──「家族写真」にはストリングスが入っていたり、“家族のぬくもり”を感じさせるような音作りが印象的ですね。
桜井:夕暮れや家族との過ごした時間とかイメージしましたね。
伊藤:
僕たちの曲で追憶するというか、歌詞によって、その人自身の心の中にある景色を思い出してもらえたら良いなと思っています。ライブで「家族写真」を歌っている時、僕は小学生の頃に家族でレオマワールドとか、和歌山のマリーナシティに行った夏休みの時の景色が思い浮かんだりするんです。僕たちの曲を聴いた方が、同じように自分自身の心の中の風景を思い浮かべてくれたら嬉しいですね。
桜井:僕たちのライブで「蝉時雨」という曲を聴いて毎回泣かれる方がいるんです。その方が“歌詞のような経験をしたことは無いけど泣いてしまうんです”とおっしゃっていたのに近いような。多分聴いてる人は、漠然と歌詞の世界と似通った思い出に気持ちをリンクさせていると思うんです。「家族写真」を聴いた方がイメージするのも、家族じゃなくて恋人かもしれないし。そういうことを出来るのが歌の魅力なのかなと思いますね。
伊藤:遊園地で家族写真を撮ってる風景では無くて、その過程の中で父親に言われた一言とか。それを思い出して感動するというか。
桜井:「家族写真」の歌詞にある“父の悔し涙”って恐らく9割方の人が見たこと無いと思うんです(笑)。でも父との葛藤って多くの人があるだろうし、“母との大喧嘩”というフレーズも、誰にも反抗期があったりするし。そういう想いを消化しきれない人にとって、そういう言葉にメロディが乗った瞬間、自分で言葉に出来なかった何かが涙になっているのかなって思いますね。昔に消化し切れなかった想いを持ってきて涙にしてあげることにバラードの役目があるのかなっていう。
最近、色んなところでライブをすると「家族写真」が一番人気があるんです。この前も、年配の方が結構いらっしゃる場所でライブをやったら、やっぱり「家族写真」を好きになる方が多かったんです。「家族写真」は子供からの視点で書いていますけど、その方たちは親からの視点、娘さん、息子さんに対して叱って後悔しているとかを思い出して泣いているのかなって。僕は親の経験が無いので、予期せぬことでした。
──アルバムの最後の1曲「スタートライン」の歌詞のテーマは、どんなところから?
桜井:最後に出来た曲なので、今の自分たちの気持ちですね。「目を閉じて見えるモノ」とは逆に、不幸せって何だろうって考えて。それは不安になっている状態の時だなって思うんです。何でそうなってるのかって先の事を考えて不安になっている。だからといって不安と戦ってばかりいても永遠に幸せになれないと感じたんで、未来の事を考えず、夢見ずに、ただ目の前の1歩前を踏み出そうと。そこがスタートラインって誰も見えないですけど、そこに自分自身の白線のスタートラインが見えたら、今日からまた新しい1歩が踏み出せるんじゃないかなって。“目を閉じて見えるモノ”というテーマにはしっかり沿えた曲に仕上がったと思います。
──“自分さがし”に一段落ついたという前作では「バイバイ」という曲で終わり、今作では「スタートライン」という明日への一歩を踏み出そうという歌で終わりますが、前作から半年の間に、どのような気持ちの変化がありましたか?
桜井:客観的に言えばポジティブですよね。「目を閉じて見えるモノ」は“カケラバンクらしくない”って言われることもあるんですよ。「引力」、「靴飛ばし」、「Let's go」などの世界観は“行くぞ”って言ってるのに何故か顔は横を向いている感じの曲なのに、「目を閉じて見えるモノ」はサビの明るさというか、しっかり前を向いているっていうイメージが、昔から聴いてくれている人にはあるんでしょうね。「スタートライン」も明るい曲で、等身大というか今の気持ちを込めただけなので、そういう明るさを特に意識している訳ではないんですけど。
──前作で“自分さがし”が一区切り付いて、新たな一歩を踏み出したアルバムという風に思っていたのですが、そういう感想を持つリスナーの方もいるんですね。
桜井:僕たちも好きなアーティストが新譜を出すと、前作と同じようなメロディ、歌詞を期待すると思うんですよね。だから30歳ぐらいになると、昔好きだったねっていうアーティストが沢山いるんですよね。20歳の頃に聴いていた作品とは全然イメージが変わって、“あの頃好きだったけど”というアーティストが増えていきますよね。自分自身が昔のイメージを吹っ切れてない、だからまた新曲で同じような曲が欲しいって思うと、そのアーティストから離れて行くのかなっていう。それは自分たちにも当てはまりますよね。
伊藤:路上ライブを2年半続けて、僕たちが音楽的に変わったところは、その瞬間に思うテンションでドンドン音楽を転がしていこうってなったことですね。つまり、1曲を1番から最後まで普通に歌うんじゃなくて、テンションが上がるところで音を伸ばしたり短くしたり、その場の空気に合わせた敏感さを持ち合わせて音楽を作っていこうと。だから僕たちとしては、自分たちが今どういうことを考えていて、どういう答えを出したら良いのかというところに対して、もっと敏感になる事を一番に置きたいなと思っているんです。将来への不安に対してどう向かっていったらイイんやろっていうところに正面からぶつかっていった時の「目を閉じて見えるモノ」だったり、目標に向かって進んで行こうっていう「スタートライン」が出来たりしたので。無理やり明るくしようと思って作った訳では無いですし、本当に思っていることを表現できた曲で、すごくシックリ来ているんですよ。だから、これがゴールじゃないんです。進むとスタートラインが出るんです。次にまた進むとスタートラインが見えるんですよ。それって長期的な目標に向かう時にスゴク大切なことだなと思っていて。マラソンでも、あの電柱まで、次の電柱までって走っているうちにゴールにたどり着くっていうことがあると思うんですけど。ゴールを目指すというよりも、その時に思うスタートラインからスタートを切るっていう、その姿勢を続けて行くことやなっていう曲が最後に出来たので、また次のモチベーションのための1曲ですね。
桜井:歌い続けるというか、この曲で言っているような事を自分たちもやらないとダメだなって思いますね。それが簡単に出来る事なら、歌詞にしてまで誰かに歌おうとは思いませんし。誰もが毎日テンションを上げて生きていないでしょうし、僕たちも出来ないし、でもやろうとしてるんだよっていう姿勢が「スタートライン」という曲を通して、ちょっとでも共鳴できれば良いなって思います。
──最後に、ニューアルバム『目を閉じて見えるモノ』を通して、リスナーの皆さんにどのような想いを伝えたいですか?
桜井:自分の中にある価値観、自分の近くにいる人たち、近くにあるモノを、とにかく大切にしないと最終的には幸せになれないなという感じを共感してもらえたら嬉しいです。
伊藤:僕たちは、最終的に自分で考え、決めて、踏み出して行けたら良いなと思っています。『目を閉じて見えるモノ』を聴いた皆さんが、その姿勢で新たな一歩を踏み出して行けたら良いなって。僕らの楽曲だけでなく、僕らの姿勢も見てもらって、一緒に歩いて行くことが出来たらって思いますね。