|
||||||||||||
──歌詞を書かれるのは、どんなタイミングで?
歌詞が一番最後です。まずは、この曲を取り上げてみようと思った時点で、勉強が始まるんですね。その楽曲の成り立ちや背景など色々調べて、楽曲のイメージ、詞のイメージができあがってから、アレンジの構想に入ります。最後の総仕上げで歌詞を書くという感じですね。
──「Greensleeves」の場合は、サウンドのイメージはどんな所から?
やっぱり、森林のイメージがありましたね、妖精が出てきそうな。森の中には、木々で太陽が遮られて、昼間でも薄明かりといった場所があるでしょう。そんなイメージでしたね。だから、音もあまり厚くせずに、ストリングスも多くなく。民族楽器も取り入れて、昔を思い出させるような、懐かしいサウンドにしたいと思いました。
──とても印象的な音色のあの笛は?ちょっとパイプオルガンのような音色ですが。
最初の笛は、パンパイプという伝統的な管楽器です。葦の茎などをたばねたもので、茎の長さで音階を作る。構造としては、パイプオルガンと同じですよね。間奏で聴こえてくるのは、ティン・ホイッスルというアイルランドの縦笛です。
──ストリングスは、二胡のような印象も持ちましたが。
確かに、普通のクラシックのバイオリンとは違いますよね。ちょっとフィドル(民族音楽で使われるバイオリン)のような感じで弾いて貰っています。
──途中、とても静かな中で、シンバルがシャシャシャシャーと鳴りますね。星が流れていくようにも感じましたが。
そうなんですよね。この曲は、星のイメージもあるんですよね。木漏れ日の森林のイメージでありながら、星のイメージもある。季節も時間帯も特定できない不思議さがあるんですよね。それも、このメロディーの力なんだと思います。やはり、400年以上も歌い継がれている、時代も国境も越えて伝わっている曲というのは、不思議な魅力を持っていますよね。
──カップリングの「ソルヴェイグの歌」は、アルバム『My Classics2』からのカットで、原曲はグリーグの「ペール・ギュント組曲」の中の1曲。イプセンの戯曲の劇中音楽として書かれたものですね。主人公のペール・ギュントは、放蕩したあげくに身体を潰すといったタイプの男性。ソルヴェイグは、そんな彼をひたすら待ち続けたの女性ですが。
ペール・ギュントは、放蕩の末に、最後の最後には、ソルヴェイグのもとへ戻って来るんですね。その時、ソルヴェイグにこう言うんです。“僕は君にとても悪い事をしてしまった。その罪を今から君の言葉で言ってくれ。それが僕の生きた証になるから”って。すると彼女は、“いいえ、あなたは何も悪い事はしていない。あなたに出会った事で、私の一生は一つの歌になりました。だから、とても感謝しています”と答えるんです。そこにすっごく感動したんですよね。その台詞と、そう言ってしまえる強さに。
──「ソルヴェイグの歌」は、10月から公開の映画“半次郎”の主題歌に起用されましたが、時代劇との組み合わせについては、どんな風に?
すっごくうれしく思っています。“半次郎”は、幕末を生きた侍達の力強い映画なのですが、その時代を一緒に生きた女性の目線からも描かれているんですよね。愛する人を見守り、支え、ずっと信じて待っている。それは、ソルヴェイグがペール・ギュントを愛し続けて、ずっとずっと待っていた、その気持ちとすごく通じると思うんです。待つというのは、とても大変な事ですよね。自分では何もできない。ただ待つしかない。すごく難しい事だと思うんです。自分というものをしっかり持って、強く生きる女性の美しさという点で、すごくリンクしました。
──元々、原曲にはどんなイメージをお持ちでしたか?
この曲は、メロディーがとっても独特で、まずは、そのメロディー・センスに圧倒されました。途中、メジャーに展開する所で、ノルウェーの遊牧民が歌っていたメロディーも登場したりして、何回歌っても、新鮮な曲に聴こえて。この曲を一体どんな風にカヴァーしようかと思って、とにかく、何回も歌って歌って歌い続けていくうちに、だんだん、大陸的な爽やかなイメージが浮かんできたんですよね。
──サウンド作りにあたっては?リズム楽器がキーとなり、最初は静かに次第にリズムが強く重くなって、ロック調に展開していきますが。
最初は、マイケル・ジャクソンの「You Rock My World」のイメージがあって、次に、スティングの「Shape of My Heart」のイメージも出てきて、そんな出発点だったんですけど。静かなんだけど情熱的な歌。どんどん盛り上がるような曲にしたかったんです。やはり、主人公(ソルヴェイグ)の想いですよね。ずっと押さえて来たもの、会いたいのに会えない気持ち、帰って来てほしいと思っても、ただ待つしかない。待つという信念を貫くためには、どれだけの情熱が必要か。楽曲の盛り上がりは、主人公の気持ち、そのまんまなんじゃないかと思います。
──イントロとアウトロのハミングも印象的ですが。
最初と最後の“あ〜”というハミングの部分は、実は、グリークの原曲がそういう作りなんです。最初にハミングで始まって、あのメロディーになって、最後にちょっと展開したメロディーのハミングで終わっていく。カヴァーでも、是非これをやってみよう、と。ハミングで挟まれた展開を意外に感じる方もいるかもしれませんが、クラシック・ファンの方が聴いたら、“おっ、これは”と、ちょっとニヤリとして貰えるんじゃないかと思います。
──ところで、幕末とクラシック曲と言うと、とてもかけ離れたものに思えるのですが、実は、時代背景としては、全く同時代なんですよね。
ええ〜っ!? あっ、確かにそうですね。
──グリーグが「ペール・ギュント組曲」を書いたのが1867年。日本の元号では、慶応3年。まさに、中村半次郎が薩摩藩士として活躍していた時期なんですよ。
うわ〜、すっごーい!
──ちなみに、1867年というのは、どんな年だったかと言うと、高明天皇が防御して明治天皇が皇位を継承、徳川慶喜が15代将軍になり、後に大政奉還が行われ、パリ万博に日本が初めて出展して、年末には坂本龍馬暗殺という激動の1年なんですよね。そんな時に、地球の裏側で、グリーグが「ソルヴェイグの歌」を作曲していた。
すっごい面白い!そうなんだ〜ピッタリ同時代なんですねぇ。
──既にヨーロッパでは、オーケストラもあって、オペラも上演されていて、でも、日本では、ちょんまげで。壮大な組曲を書いていた作曲家と、日本を何とかしようと奔走していた武士が同じ時に同じ地球上にいたんですよね。そして、その2人が、140年余の時を経て、こういう形で出会う。
ほんとに、すっごいコラボですねぇ。“半次郎”のストーリーと、「ソルヴェイグの歌」は、ほんとにピッタリ合うなとは思っていたんですけど、その時代までもが一緒だったとは思ってもみなかったので、本当にビックリしました。きっと、この曲は、そういう運命だったのかもしれないですね。
──例えば、中村半次郎や坂本龍馬が生きた時代に、この曲が出来たんだと認識すると、クラシックにまた新たな親近感が生まれますよね。
ほんとにそうですね。ますます、クラシックのカヴァーに意欲が湧いてきます。
──いよいよCDリリースとなりましたが、この2曲をみなさんにどんな風に聴いてほしいですか?
「Greensleeves」は、クリスマス・キャロルとしても親しまれてきたメロディーなので、是非、クリスマスの時期にも聴いてほしいですね。私がずっと抱いてきた「Greensleeves」のイメージで、CDジャケットも表現できました。これはCDを手にしてくださった方にしかわからないんですけど、ジャケットを開くと、女性だったら“うわっ”と思わず声が出るような素敵な仕掛けもあるので、是非、それも楽しんでいただけたらと思います。「ソルヴェイグの歌」は、アルバム『My Classics2』で聴いてくださった方も多いと思うのですが、今回、映画“半次郎”の主題歌として、またより多くの方に聴いて貰える事となってうれしく思っています。
──リリース後のご予定は?
来年の3月2日に『My Classics3』をリリースする予定なので、それに向けての制作準備ですね。もちろん、オリジナル曲も早く歌いたいんですけど、もうしばらくは、クラシクックに思いっきり浸って、歌や歌詞はもちろん、生き方というのも、作者の方から勉強したいなと思います。
──『My Classics3』に向けては、どんなイメージを?
1枚目の『My Classics!』は、ファンのみなさんから、カヴァーしてほしいクラシック曲を募集して制作したんですけど、次回の『Classics3』でも、また、みなさんに力を貸していただいて、曲を募集しようと思っています。平原綾香に歌わせたい曲があったら、ぜひぜひ、応募してくださいね。