──アルバム1曲目が「雨色」。続いて、「風の谷のナウシカ」。アニメ映画の印象とは、全く異なるイメージになりましたね。
僕もジブリ映画は大好きなんですけど、皆さんがご存知の“ナウシカ”は置いておいて、松本さんの詞だけで解釈して、“風が吹く谷に住んでいる一人の少女の物語”として描いていこうと思ったんですよね。
──高橋さんがイメージしたのは、どんな少女?
幼い少女なんだけれども、瞬間的にドキリとする事を口にする。♪何故人は傷つけあうの 倖せに小石を投げて・・・とか、♪愛しあう人は誰でも 飛び方を知ってるものよ・・・とか。無邪気に草原で踊っている少女なのに、真実を知っているというか、真理をついているというか・・・そういう少女像を追求しました。
──童話を聞かせてもらっているような、お芝居のナレーションのような・・・そんな感覚になりました。
そこが重要だと思うんですよね。少女の歌だからって、僕が少女になってしまうのは、感情でコントロールしているという事だと思うんです。僕はいつも同じ位置にいて、朗読者のように、その言葉を美しく伝えていく。松本さんの言葉を歌うには、それがいちばんだと思います。
──「風をあつめて」は、松本隆さんも在籍されていた“はっぴいえんど”の代表曲ですが。
「風をあつめて」は、とっても難しかったです。すっごく匂いが強い曲で。作曲は、細野晴臣さんなんですけど、コード進行もメロディーも、細野さんの匂いが強くて、その個性を、僕らのフィールドに持って来るのに、とっても苦労しました。♪風を集めて、青空をかけていきたいんです・・・って、もうそれだけで“はっぴいえんど”の世界でしょう。でも、その70年代のはっぴいえんどの世界観に囚われずに、この詞を歌いたかった。イメージとしては、ひと気のない朝の珈琲屋さんで、ガラス越しに外を見ながら“風を集めて青空をかけてみたいな”と思ったりする、そういう少年の歌として捉えたんですよね。
──原曲は1971年のリリースですが、約40年を経て、同じ場所に今も同じ珈琲屋さんがあって、そこに現代の少年がいる・・・古い地図に今の地図を重ねて見ているような、そんな感覚になりました。
あ〜、確かにそうですね。それは、すっごくうれしいですね。僕らとしては、あえて何かを崩したいとか、そういう事ではなかったんですけど、ちょっとだけコード進行とリズムを変えたりして、僕らがイメージした少年像をサウンドで描けたと思います。
──「水中メガネ」というのも、意外な選曲に思えましたが。
この曲の映像感がすっごく好きなんですよね。最初に聴いた時“なんて綺麗なんだろう”というのが第一印象で。女の子が、水中メガネを被って孤独に籠っていくという設定の中で、特に2番のサビ ♪熱帯の魚と じゃれるように暑い暑い夏の夜・・・という一節の映像感がすごく綺麗で。女の子が鏡の前で泣きながら踊っているのに、彼の方はそれを意に介さない。♪あなたは無視して漫画にくすくす わたしは孤独に泳ぎ出しそう・・・このフレーズも大好きなんですけど。フィクションですごく美しい世界。現実と非現実を行ったり来たりするストーリーがホントに秀逸ですよね。サウンドは、海の中で踊っているようなイメージで作っていきました。
──「てぃーんずぶるーす」は、原田真二さんのデビュー曲。松本さんの代表作の1つでもあると思うのですが。
この曲は、「雨色」とは逆で、女の子の方が去ってしまう。都会で暮らすうちに、彼女が“造花のように美しく”変わってしまった・・・ティーンズの出会いと別れを描き、そういう世代の傷つき易さを大人はわかっていない。そういうテーマだと捉えて、ひも解いていったんですけど。あとは“変化”ですね。“造花のように美しく”という描写がすっごく好きなんですけど、そういう風に、少女がオンナに、少年がオトコになっていく瞬間。10代という、最も大きく変化が感じられる人生の中の短い時間。その壊れ易さ、脆さを捉えている詞だなと思います。
──子供から大人への過渡期という点では“オトナモード”の世界観とも通じるものがあるのではないですか。
オトナモードとの接点をすっごく感じる曲でもありますね。オトナモードというのは、大人でもなく子供でもなく、グレー・ゾーンというか、白か黒かじゃない、そのグレーなところを見つめていきたいというのがあって、それでバンド名にしたんですけど。松本さんの楽曲の中で、僕が最も共感するところは、何かが何かに移り変わろうとする、移り変わりの中で掴めない物を掴もうとする感覚。それを感じて、すごく好きなんですけど。ある一瞬の儚さというのをすごく感じます。
──「いつか晴れた日に」は、山下達郎さんの曲ですね。この曲は、どんな所にシンパシーを?
この曲は、「雨色」に通じる世界観を強く感じます。同じ傷口から出て来たんじゃないかって。自由とか、孤独とか、同じものを見つめている感じがしたんですよね。だから、僕は、この曲の主人公を「雨色」と同じ少年だと想定して、歌ったんですけど。
──雨という共通のテーマもありますが。
そうですね。サウンドは、それを反映させてますね。
──「木綿のハンカチーフ」は、以前から、松本さんの詞で一番好きな歌とおっしゃってましたね。
ほんとに大好きですね。都会に出て行って変わっていく男と、残って待っている立場の優しさと。もう歌詞に全て書かれているから、僕が何か言う必要はないんですけど、時間軸も含めて、全てを持っている曲だと思います。
──その中でも、特にお好きなフレーズなどありますか?
特にいいなと思うのは、♪君を忘れて 変わってくぼくを許して〜と言いながら、一方で、♪毎日愉快に 過ごす街角・・・と言っている。彼女に対して、ごめんねと思いながらも、愉快に暮らしちゃうっていうのが、すごく人間らしいなって思うんですよね。都会で暮らし始めて、次から次へと夢中になれるものが出てきて、変わっていく。次第に離れていく男女のストーリーですけど、そこにチラチラと出てくる、悲しみと優しさのぶり返し。寄せては返す感覚というのが、とっても深みを増しているんじゃないかと思います。
──「悲しみのボート」は、松田聖子さんの歌ですね。数多くの聖子さんの楽曲の中から、敢えてこの曲を選ばれたのは?
1999年の松田聖子さんのシングル曲なんですけど、僕がこの曲を知ったのは、最近になってからなんです。1999年に松本さんが作家生活30周年を迎えられた時、ドキュメンタリー番組があって、その中でこの曲の制作の模様が描かれていたんですね。その映像を最近になって見て、聖子さんが歌う「悲しみのボート」を聴いた瞬間に、もう感動して、絶対歌いたいと思ったんです。本当に素晴らしい曲です。
──「想い出の散歩道」は、アグネス・チャンさんの1974年の曲。アルバムの中の1曲でしたが、隠れた名曲ですね。
僕はこの曲を、松本さんの作品集『風街図鑑』で初めて知ったのですが、この曲も、描かれている時間軸がすごく好きですね。あなたがいないと手が届かなかった林檎に、手が届くようになっちゃった・・・少女がオンナになって、変わったのは自分なんだと気づいて、ひとりぼっちで歩いていく。1つの囲いの中から、自分が一歩外へ足を踏み出していく、それを感じる詞が好きなんですよね。
──駆け足で1曲ごとお聞きしてきましたが、全編を通して、改めて松本隆さんの詞についてお感じになった事はありますか?
このアルバムでは、70年代、80年代、90年代、00年代+最新曲の「雨色」という構成ですけど、それを通して、松本さんの詞の普遍性というものを改めて実感しました。松本さんって、どうしてこんなに変わらないんだろうって。
──高橋さんが思われる“普遍性”とは?
人間のリアルなんて、いつの時代も変わらないと思うんです。例えば、シェイクスピアを読んでも、男女の愛憎とか、上司と部下の関係とか、いつか成りあがってやろうとか、様々な物語が描かれていますけど、今読んでも、それをリアルに感じる事ができる。人間の営みというのは、どれだけ時代を経ても変わらないと思うんです。それが普遍性だと思います。でも、アイテムは変わっていきますよね。それが時代性という事になるのかしれないけど。松本さんの詞のスゴい所は、普遍性を持ちながら、時代の変化は感じられる。その時代を感じられるアイテムはちゃんと入っている。なのに、何も変わらない。これって、マジックだと思います。
──高橋さん自身も、ご自分で作詞をなさるわけですが、気持ちが新たになった点はありますか?
楽曲づくりという点ですごく刺激を受けました。当たり前の事なんですけど、改めて、やっぱりイイ曲を作らなければいけない、いい歌を歌わなければいけないと思いました。
──リリース後のご予定は?
2月に、クミコさんとオトナモードとで、松本隆さんのトリビュート・ライヴを開催します。その後、4月には、ワンマン・ライヴも決まりました!ぜひ、遊びに来てください!
オトナモード ライヴ・スケジュール
TAKASHI MATSUMOTO 40th ANNIVERSARY
[日時] 2/26(金) 19:00
[会場] 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
[出演] クミコ/オトナモード
[料金] 指定席¥4,000 スタンディング¥3,500(税込)*ドリンク代別
[info] duo MUSIC EXCHANGE 03-5459-8716
オトナモードワンマン
“雨の色 風の色”〜松本隆トリビュートライブ〜
[日時] 4/4(日) 18:00
[会場] 大阪 umeda AKASO
[料金] 全自由¥3,500(税込)*ドリンク代別
[info] 清水音泉 06-6357-3666
[日時] 4/7(水) 19:00
[会場] Live House 浜松 窓枠
[料金] 全自由¥3,500(税込)*ドリンク代別
[info] サンデーフォークプロモーション静岡 054-284-9999
[日時] 4/10(土) 18:00
[会場] 東京キネマ倶楽部
[料金] ¥3,500(税込)*ドリンク代別
[info] ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999
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