──高橋さんは、シンガーとして長いキャリアをお持ちですが、最初はどんなキッカケだったのですか?
高橋:大学1年の時にバンドでコンテストに出場して、それがキッカケで久保田利伸さんのコーラスのオーディションを受けることになって。でも、実は私、人前に出るのが大の苦手で、すっごく緊張するんですよ。大きなスタジオにマイクが2本だけ立っていて、いきなり久保田さんと2人で歌うというオーディションで、足はガクガク、声は震えるし、もう気絶寸前!ゼッタイ落ちたと思ったんですけど、審査員全員が×をつけたのに、久保田さんだけが○をつけてくれたそうで。久保田さんに拾ってもらったから今日があるんです(笑)。
──児童合唱団にも入ってらしたとか?
高橋:小学生の頃、滝野川少年少女合唱団という合唱団に入っていまして・・・。実は、その合唱団時代に一度レコーディングを経験しているんです。『手塚治虫の世界のアニメ集』というレコードの企画で、「不思議なメルモ」を歌った事があるんですよ(『復刻 手塚治虫作品傑作集』として98年にCD化)。色々な歌手の方のコーラスにも参加しましたし、プラシド・ドミンゴの「カルメン」に子供コーラスとして出演した事もあるんです。
──それほど豊富な経験があっても、あがり症なんですか?
高橋:歌は大好きだし、合唱団とかバンドとか大人数だと平気なんですけど、私一人だけが見られるというのが、考えただけで気絶しそうになるんです(笑)。今でも、そうなんですけど。
──本格的なソロ・デビューは?
高橋:初めてソロで出したCDは91年の「おかえり」というシングル。これは、“ママ達の受験戦争”というドラマ(フジテレビ系 1991年9〜11月)の主題歌で、当初はTV用のワンショットだけ歌うはずが、急きょCD化という事になってリリースしたんですけど。本格的なソロ・デビューというと、「P.S.I miss you」になります。
──「P.S.I miss you」は、遠距離恋愛をテーマにした切ないバラードでしたね。
高橋:元々は、“逢いたい時にあなたはいない…”というドラマ(中山美穂・大鶴義丹主演、1991年10〜12月のフジテレビ月9ドラマ)の中で流れていたピアノ曲だったんですよ。それに歌詞をつけて“劇中歌”を制作する事になり、曲調が私の雰囲気に合うという事でお話をいただいたんです。ところが、ドラマのディレクターが“フランス語が良かったんだけど・・・”って。結局、レコーディングした日本語の曲は、ドラマの中では流れなかったんです。それが「P.S.I miss you」。でも、有線放送で火がついて、じわじわとヒットして。その年の有線放送の新人賞、レコード大賞の新人賞をいただきました。ただ、私自身は何がなんでもソロ・シンガーになりたいと思っていたわけではなくて・・・何しろあがり症ですから(笑)。その時点では、ご縁があって歌わせていただいて、ありがたいなというような感覚でした。
──「残酷な天使のテーゼ」は、デビューから4年目?
高橋:そうですね。ちょうど半年間のL.A.音楽留学から帰国したばかりで、歌いたいという気持ちがすごく強くなっていた時期でした。その時は、プロのシンガーとして求められる歌と歌う、そういう感覚で臨んだのですが、こうして、今でも歌が歌えるというのは、やはり、「残酷な天使のテーゼ」があったからこそだと思っています。
──「残酷な天使のテーゼ2009 VERSION」では、3曲目の「One Little Wish」で原点回帰とも言えるバラード・ナンバーを披露されていますが。
高橋:今の日本は、物質的には豊かになったけれども、心の風邪をひいてる人があまりに多い。その心の風邪に対して、歌を歌う私が何ができるか。何か温かくなれるような事をしたいと思って。とても不安定な世の中になって、毎日毎日みんな色んな事があるけれど、ここで皆さんに、静かに何か・・・そう、大丈夫だよって伝えたいなと思ったんですよね。
──作曲は森大輔さんですね。
高橋:森さんはいつも、“あ〜歌いたいな”という曲を書いてくれるんですよ。それで、バラードで静かに私の想いを届けたいと思った時に、森さんしかいないと思ってお願いしたんですけど。
──曲が先ですか?それとも歌詞が先?
高橋:メロディが先です。
──メロディをお聞きになって、歌詞はどんなイメージで?
高橋:母心ですね。エヴァの中の大きな母心のような。エヴァンゲリオンのシンジ君への想いがあって、書き始めた詞なんですよ。今の私にとっては、もう彼は息子なんですよね。そんなんじゃダメじゃないとか、何やってんのとか思ったり。一方で、なんだ、こんないい所もあるんだと感じたり。今は、とても困難な時代で、私の周囲にも鬱になってしまった人もいるし、私自身ももう限界だなって思った事もあるし。私自身も、シンジ君になっている時があるんだと思うんですよね。そんな時、どんな言葉をかけてほしいだろうか、どんな風に言ってほしいだろうか。そんな事を思いながら書いた詞です。
──「One Little Wish」・・・小さな願いとは、母としての願い?
高橋:そうですね。あなたはあなたでいいんだよ。あなたが、あなたとしていてくれたら、それでいいんだよって言う。好きなものは好き、イヤなものはイヤでいい。人と同じである必要もないし、人と比べる必要もない。あなたはあなたのままでいいんだよって。でも、自分の事ばかり考えるのは、自分を破滅に追い込む事にもなる。他者と関係するという事もすごく大事。価値観の異なる人と出会う事によって成長できる。そういう幸せも知ってほしいという想いもあります。
──♪愛された証・・・というフレーズがとても心強いですね。エヴァンゲリオンというテーマがあってこのCDを聴くと、3曲目がとても深い意味を持つように感じます。
高橋:信じる力というのは、すっごく大事だと思うんです。悪い方ばかりに考えても、いい方に考えても、成功するときは成功するし、失敗する時は失敗する。だったら、信じた方がいいって思うんですよね。道行く人みんなに言ってあげたいんですよ。“そんなに心配しないで、大丈夫よ”って。
──高橋さんにとって、これからの“願い”は?
高橋:私は、ご縁があって障害者の方とのお付き合いも多いんですけど、いつも、愛とか勇気とか、たくさんのものをいただいているんですね。魂に届くようなメッセージというか・・・。それは、彼らが自分の言葉を持っているからなんですよね。言葉にしても、歌にしても、音や文字も、本当に心から思っているものだったら、必ず伝わるんですよね。だから、私は、シンガーとして、そこをちゃんとやっていかなくちゃと思うし、それができれば、少しずつでも色々な事が良くなっていくんじゃないかなって、そう願っています。
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