──2曲目の「キャンパス」は、伸治さんの作詞・作曲ですね。
伸治:最近作ったばかりの曲です。たまたま、スタッフの中にお子さんが生まれた方がいて、祝福したくて作った曲です。人間は、生まれたときは善人でも悪人でもなくて、真っ白な状態なんだよね、という話をしていたときに、それが「キャンパス」のイメージになって。これから、白いキャンパスに自分の絵を描いていってほしいな、と。親としては、子供の幸せを願うのが当たり前なんだろうけど、僕は逆に、壁にぶち当たってほしいなと思ったんです。幸せすぎると人の痛みがわからないでしょう。傷ついたり、傷つけたりしながら、困難を乗り越えていく。子供たちには、そうあってほしいと思うんですよ。
──“弱い僕よどうか、バレないように夜に出てきて”というフレーズが、印象に残ったのですが。
伸治:この曲は、父親の視点で書いた曲なんですが、親となったからには強くならなくちゃいけないと思うんですけど、男が弱かったら奥さんや子供も不安にさせてしまう。だから昼間、家族の前では弱音を吐かず、弱い心は夜、自分ひとりだけの時にしなよって、そういうメッセージですね。
──3曲目の「歌わない歌」は、卓さんの曲ですね。
卓:実は「あの日の2人のように」と繋がってる曲なんです。その子とは、僕が路上で歌ってるときに出会ったんです。その時、歌ってた曲が、キャンディーズの「春一番」。僕、路上で「春一番」をよく歌っていたんです。「春一番」を歌っていた春に、その子と出会った。2人とも好きだった歌だったから、別れてからはもう歌いたくなくて。
──悲しい歌なのに、最後は大人数のコーラスで、明るい展開になりますね?
卓:届いてほしいっていう気持ちが強かったんですね。僕はもう、あの歌は歌わないけど、この「歌わない歌」という曲を歌うことで、僕の気持ちを届けたいと。最初はコーラスを入れる予定はなかったんですけど、もっと届く方法はないかなと思って、みんなで歌おうって僕が提案して、コーラス部分が加わったんです。
──歌詞の中に出てくる“一畑の路地”というのは?
伸治:松江市に一畑百貨店というのがあって、僕らはその路地でよく歌ってたんです。
卓:松江に帰ったときは、今でも、そこで歌ってるんですけどね。
──お2人とも、曲作りは、全く別々に?
伸治:ええ。お互い知らない間に、曲を作ってます(笑)。僕は、常にボイスレコーダーを持ち歩いていて、メロディが浮かんだら、即、録音しています。散歩したり、走ったり、ドライブしたり…楽しい気分の時に、メロディが浮かぶ事が多いですね。そしたら、すぐに録音します。友達と一緒の時などは、トイレに立つふりをして、こっそり録音したり(笑)。
──メロディと歌詞は同時に?
伸治:ええ、言葉も一緒です。だいたい、それがサビになることが多いですね。最終的に1曲に仕上げるときは、誰もいない場所に閉じこもって、録っておいたものを軸にして、詞の方向性、テーマを明確にして仕上げていきます。
──詞を仕上げるときは、どんな風に?
伸治:僕は、携帯電話を使うんです。携帯電話に保存した文章って、次に呼び出した時は、必ず1行目から読まなくちゃいけないでしょう。画面が小さいから、1行ずつスクロールさせなくちゃいけない。その不便さが、逆にいいんですよ。何回も何回も反復して読むことになるので、このあと、自分はどういうことを書きたいのか突き詰めていくことができる。1番と2番のつながりが見えてきたり。そうやって、スクロールを繰り返すことで、1行ずつ確定させていく・・・そんな感じですね。できあがった詞は、最終的には、手書きで清書しますけど。
──上京してから、詞は変わりましたか?
伸治:変わったと思います。刺激されるものがたくさんあるし、出会う人の多さが全然違いますから。歌いたいことが増えますね。
──卓さんは、どんな風に?
卓:僕もメロディと詞は同時です。やっぱり、最初にサビが出てきます。できた! と思ったら、すぐに録音します。高校時代は、授業中に曲を書いたこともあります。何かヒントがあって、今書きたいって思ってでも、録音もできないし。それで、コードは頭の中に入っているから、詞をノートに書いて、そこにコードをふって、エアギターで1曲作ったこともあります(笑)。夢の中で曲を作っていたこともあるんです。目が覚めた瞬間に、1曲できた! と思ってすぐに録音しました(笑)。
──「うたまっぷ」には、自作歌詞の投稿コーナーもあるのですが、何かアドバイスをお願いできませんか?
伸治:僕は、常に、いいなと思った言葉は、ケータイのメモリーに入れるか、ノートに書いて残してます。自分の好きなフレーズってあるでしょう。あと、心に響いたフレーズとか。そういうのを、どんどん貯めています。そうやって、言葉やフレーズを貯めておくと、2つの言葉を組み合わせることで、より深い意味になったり、全く異なる雰囲気になったり。だから、言葉を貯めておくといいと思います。
卓:僕は、よく自分だけの造語を作るんですね。例えば、以前に“記憶香”という言葉を作ったことがあって。“残り香”という言葉はありますけど、それとはまた少しニュアンスが違う。でも、“記憶香”って何となくわかるでしょう?そういう自分だけの造語を作って、詞の中に入れていくと、また違う世界が生まれてくると思います。詞って、自由なものだから、どんどん造語を作っちゃうと面白いですよ。
──これから、歌いたいことは?
卓:僕が常々思っているのは“忘れそうなワンシーン”を書いていきたいんですね。恋人、友達、あるいは家族のことでも、聴く人が“ああ、確かにこんな事あったな”と思い出してもらえるような歌を書きたい、といつも思っています。
伸治:僕は、その時その時で、常に“誰かひとり”のために書いているんです。1曲、1曲に、対象となる誰かがいます。これからも、それは変わらないと思いますね。思ってもいない事は歌にしたくないし、僕の思っている事が、伝えたいその人に届く、そういう歌を作り続けたいと思っています。
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