アップルティ—/杏沙子
昨年7月にミニアルバム『花火の魔法』で鮮烈なメジャーデビューを飾った次世代シンガー、杏沙子(あさこ)。インディーズ時代の楽曲「道」「アップルティー」「マイダーリン」の3曲の総再生回数が650万回を突破するなど、既に数多の人が彼女の歌にハマっている事と思う。次なる展開に期待が高まる中、遂に待望の1stフルアルバム『フェルマータ』がリリースされるということで、杏沙子に直撃インタビュー。『花火の魔法』のリリース後、ある呪縛に捉われた彼女は、曲作りに苦しんだ時期があったという。そのトンネルを抜け自由にやりたい放題やらせて貰ったと語る今作は、抜群のポップセンスを誇る彼女のポテンシャル全開の快作。バラエティに富んだ11曲が絶妙なバランスで紡がれた1枚は、きっと聴く人を楽しませ、幸せな気持ちにさせてくれるだろう。クルクル変わるキュートな表情で、時に笑いを交え時に熱くアルバムを語る彼女がとても印象的な取材となった。収録されたインディーズ期からの代表曲の1つ「アップルティー」は「JTBついてる!Hawaiiキャンペーン」TVCMソングに決定。幅広い年代が口ずさめるメロディと歌詞は、お茶の間をも席捲しそうな予感がする。そんな魅力溢れる楽曲たちで彩られたアルバム『フェルマータ』から杏沙子のさらなる快進撃が始まりそうだ。
──1stフルアルバム『フェルマータ』はバラエティに富んだ楽曲と絶妙な曲順に惹き込まれます。また、ツイッターやインスタグラムのコメントが歌詞に繋がっているようにも思えて、歌詞から素顔が垣間見れるような気もしました。杏沙子さんは今作について「遊びました」とコメントされています。
制作を終えた感想は「遊びました」が一言目だなと思って。メジャーデビューが決まって様々なミュージシャン、アレンジャー、作家の方々と沢山出会って益々音楽が好きになったというか、より一層楽しいな、面白いなと思うようになりました。『花火の魔法』の制作中も、私が今まで触れて来なかった音楽を好きだなと感じるようになったり、自分のフィールドがドンドン広がって行ったりした気がします。それでフルアルバムは私の衝動のままに作って行きましたね。
──「恋の予防接種」「着ぐるみ」を始め収録曲の多くは、昨年9月に大阪と東京で開催されたメジャーデビュー記念ワンマンライブ「花火の魔法にかかる夜」で披露されているようです。
9月のワンマンライブは「新曲パラダイスだよ!」と言って、6曲目の「ダンスダンスダンス」と11曲目の「とっとりのうた」以外は全部歌いましたね。制作は前作『花火の魔法』と同時進行でしたけど、フルアルバムのために曲作りをするというよりかは、ゆっくり長い時間を掛けて自由に好きな曲を、とにかく面白そうだなと思う曲を作って行きました。だからこそいろんな味、いろんな色の楽曲が集まって、おもちゃ箱をひっくり返したようなアルバムに仕上がったなと思います。本当に自由にやりたい放題やらせて貰いました。
──楽曲提供とサウンドプロデューサーに山本隆二さん、横山裕章さん、冨田恵一さん、宮川弾さん、幕須介人さんを迎え、さらにレコーディングも名越由貴夫さん、佐野康夫さん、伊藤大地さん、沖山優司さん、美央ストリングスさんなどの凄腕ミュージシャンが参加されています。ご一緒してどんな刺激を受けましたか?
一貫して思うのは、ご一緒した皆さんが根底に「誰も聴いた事が無いような面白い物を作ろう!」という遊び心を持っていらして、それに刺激を受けたなと思います。これまで数多くの素晴らしいアーティストさんに携わって来られて、お互いにスパイスを貰ったり渡したりしながら素敵な音楽を作っているんだなって実感しました。それに私も刺激されて、もっと自分の殻を破ってみようというか、私の知らない自分に会いに行ってみたいなと思いましたね。
──面白がりながら完成したアルバムのようですが、タイトルは『フェルマータ』です。制作のどんなタイミングで、どのように決められたのですか?
全曲揃ってから決めました。バラエティに富んだ曲が詰まっているお菓子のアソートパックみたいなアルバムなので、タイトルを決めるのがすごく難しくて。どうしようか考えている中で、ふと音楽記号はどうかなと思って一覧表を調べました。フェルマータという記号は元々知っていたんですけど、あらためて意味を見た時に、アルバム制作中の私の気持ちや姿勢にピッタリ合うなと思ったんです。
──どういう事ですか?
フェルマータは延音記号と言われていて、その記号が付いた音符や休符を任意の長さで延ばしていいよという意味です。拍の機能が停止されて好きなだけ延ばしていいし、その長さは演奏者に委ねられて音楽をより面白くします。その拍が例えば今までの自分の考えやルール、または音楽界のジャンルだとしたら、今回の私はそういう拍から解放されて自由にアルバム制作をしていたなって思います。そういう意味で、私が自分自身にフェルマータを付けたアルバムでもあります。あと『花火の魔法』からこの想いはずっと変わらないんですけど、リスナーには私が作った意味や情景に捉われず、お好きなように聴いて貰いたいんですね。それで自分に関する意味でも、聴いてくれる人にも何かのルールに捉われず自由に聴いて欲しいという意味でも、『フェルマータ』に決めました。
──アルバムタイトルには「ここからずっと自分らしく自身のペースで音楽を続けて行くんだ!」という強い決意も込められているそうです。
やっぱり私自身が楽曲制作やレコーディングを楽しんでいないと、きっと聴いている人も楽しくないだろうなと思います。だから、私が何にも縛られず解放された状態で楽しむ事が、良い音楽を作り続けて行く上で一番大事なのかなって。そういう意味で、これからの自分の願いも込めたタイトルです。
──『花火の魔法』に続き、幕須介人さんが「着ぐるみ」「ユニセックス」「天気雨の中の私たち」の3曲で作詞作曲を手掛けています。幕開けを飾る「着ぐるみ」は、杏沙子さんが書いた歌詞のような気がしました。
私は幕須さんの曲が大好きで、『花火の魔法』に「天気雨の中の私たち」と「クラゲになった日の話」の2曲を提供して頂きました。そして今回、この「着ぐるみ」という曲を頂いた時に、私も「自分が書いたんじゃないか!?」って(笑)。私の事を歌われているんじゃないかと思うくらい全く違和感が無くて、すごくピッタリきた曲でしたね。
──「キュートな着ぐるみに入って/辛辣なこと言いたい」という歌詞がユニークです。
幕須さんと話をしてもいないのに、ちょうど私がこの歌詞と同じような悩みを持っていた時に頂いたので、すごく思い入れのある曲です。相手を慮って思っている事を言えずに、後から「あれを言えば良かったな」「本当はこう思っていたのにな」と思い返す事がよくあった時期に頂いたんです。相手の顔色をうかがってばかりいるから、着ぐるみの中は蒸し上がってしまって、すごく熱くて苦しいんですよね。それを脱いで全く何も無い素肌の状態で戦うのは、直に傷が付いて痛い事ではありますけど、本当の幸せを得るためにはそうしなければならないなって。人とコミュニケーションを取る上で着ぐるみを着て生活するというのは誰しも経験しているというか、全く着ぐるみを着ずに生きて来られている人のほうが少ないのではないでしょうか。音はポップな感じではありますけど、内容はすごく深くて共感してもらえる歌詞なんじゃないかなって思います。
──幕須さんに悩みを話していないのに、何故かそういう曲が出来上がってくる?
幕須さん本人とはご挨拶くらいしかしていなくて、シッカリお話した事が無いんです。なのにその時々で私の気持ちにピッタリシックリくる曲を頂けるのが不思議なんですよね。以前はお会いしてジックリ話をしたいと思っていましたけど、これはもう話さないままでいたほうが面白いかもしれないなって。幕須さんから見えている私を知りたいと思って、今はあえて会わないようにしようと思っている自分もいます(笑)。それが自分の気付きになる部分も多かったりしますし。もしかしたら私をイメージしている訳では無く、ご自身の事を書いているのかもしれないですけど、それはそれで何かが繋がっている気がして面白いなと。
──幕須さんとは何か繋がっている物があるんですかね。
運命ですね(笑)。
──でも、次の曲では「『運命』なんか幻」と歌っています(笑)。
あえて会わないから、運命は幻ですね(笑)。
──その「恋の予防接種」も、「予防接種じゃ勝てない/君のウイルスにはもう」という恋する想いをウィルスに例えた表現が面白いです。
地元の鳥取に居た時に、冗談半分によく両親から「恋愛は予防接種だから」と言われていました(笑)。だから良い恋を沢山しなさいと。それが自分の人間性を形作っていくし、結果的に一番良い人と結婚するのかは分からないですけど、人を見極められるようになるというか。恋を教訓として自分の生き方をより良くして行けるからという意味で「恋は予防接種だから沢山打ちなさい」と言われていました。
──恋愛を人間形成の一環と教える素敵なご両親ですね。何歳頃から言われていたんですか?
中学高校ぐらいからですかね。それを突然思い出して、私の両親はすごい事を言っていたんだなと思って、これは曲に出来そうだなと(笑)。それでサビから作りましたね。予防接種が効かない、つまり過去の恋愛から得た教訓が全く効かない恋愛をしてしまう。結局教訓を得てもダメな物はダメだなって(笑)。ちょうどこの曲を作っている時に、彼氏に振り回されている友達がいて、でも彼女は楽しそうでしたし、恋の喜びを一番感じているところでもあるのかなと思いました。そういう曲を少し面白オカシク書きたいなと思って出来た曲です。
──「チョコレートボックス」と「半透明のさよなら」は、元ラヴ・タンバリンズの宮川弾さんが作曲を手掛けていて、杏沙子さんが作詞をされています。宮川さんに楽曲提供をお願いしたキッカケは?
元々ディレクターさんがお仕事をご一緒されていたみたいで、とても良い曲を書いてくれるセンスのある素敵な人が居ると紹介されました。それで、宮川さんが私のために書いて下さった曲を聴いて、歌詞を書いてみたいなと思ったのがキッカケです。実は誰かのメロディに歌詞をつけるのは初めてです。それもあって面白そうだからやってみたいと思いましたし、私とはまた違った作りのメロディだったから、今まで書いたことの無い歌詞が生まれるかもしれないという好奇心もあって、是非にと「半透明のさよなら」と「チョコレートボックス」の2曲をご一緒させて頂きました。
──「半透明のさよなら」には「キッチンでコーヒーを淹れてみても苦手なまま/あのとき苦い言葉だって/ちゃんと飲み込めたはずなのに」とあります。コーヒーが苦手と伺っていたので、この歌詞は杏沙子さんの素が出ているのかなと。
私も出来上がった歌詞を見ていて、一番等身大だなって思いましたね。「アップルティー」や「恋の予防接種」は私自身の事を描いているのではなく、友達から聞いた話や過去の経験を思い出しながら物語を創作しています。「半透明のさよなら」で描いている恋愛も実体験では無いですけど、もし今失恋したとしたら私はこうなるかなと思いながら書きました。作詞をしている時に頭に流れている映像に映っていたのは私でしたね。
──「半透明のさよなら」とは消えゆく記憶という意味ですか?
消えゆく記憶も表していますけど、さよならが出来ていない、まださよならし切れていないという意味です。これはすごく不思議で、宮川さんのサビのメロディを聴いた時に、「半透明のさよならを」というフレーズがそのまま口を衝いて出て来たんです。宮川さんのメロディがあったからこそ生まれた言葉だなと思います。そのワードがパッと出て「あっ!これで作ろう」と思って肉付けして行きました。
──一方、「チョコレートボックス」のサビの歌詞は、名優トム・ハンクスの主演映画『フォレスト・ガンプ』のセリフにインスパイアされているのでは?
そうですね。すごく大好きな映画です。歌詞の内容とは全く繋がりは無いんですけど、素敵な映画だなと思ってインスピレーションを得てチョコレートボックスをメインに考えました。「半透明のさよなら」はスルッと出て来たんですけど、このメロディにはどういう歌詞を付けようか悩みました。そういう時によく映画を観るんですね。そこで偶然に『フォレスト・ガンプ』を観て、主人公のママが言うセリフが素敵だなと思って。サビのメロディは直観で英語が合いそうだなと思っていたところにそのセリフがリンクしたので、試しにメロディに合わせたら良い感じにハマったと思って。この曲もサビから肉付けして行きました。
──サビから作る事が多いようですが、面白い作り方をしますね。
歌詞も曲も大体サビから作りますね。作詞をする時も、サビのメロディに綺麗にハマる言葉から物語を延ばして広げて行く方が私は作りやすいです。
よく考えたらこの2曲はどちらも曖昧なところを描いているので、宮川さんのメロディはグレーな曲が出来るんだなって今思いました。「半透明のさよなら」は白か黒かハッキリしないグレーな想いを半透明と表現しています。「チョコレートボックス」の歌詞にも「グレー色の街」とあって、これも白か黒かハッキリしてくれない男の人の歌です。「だから 晴れるか曇るか 降るか降らないか」というのもグレーなところですし、2曲とも曖昧なところを歌いたかったんですね(笑)。
──サウンド面では「よっちゃんの運動会」と「ダンスダンスダンス」が印象的です。まず、「よっちゃんの運動会」はクラシックの名曲「剣の舞」を彷彿させる速いテンポで、高校時代に吹奏楽部だった杏沙子さんらしい曲のように思います。
この曲は物凄く遊びました。レコーディングは超楽しかったです(笑)。「よっちゃんの運動会」は楽器を一番重ねたんじゃないかな。高校の吹奏楽部時代以来に見る沢山の楽器と演奏者が集まって、それを見ているのがメチャメチャ楽しかったです。吹奏楽部の経験もあって、レコーディング中も「もっと行けます!」「もう1回行きましょう!」とか言ったりして(笑)。昨年9月のワンマンライブはバンドバージョンで初披露しましたけど、お客さんが皆、本当に面白いくらい口をポカーンと開けてステージを見ていましたね(笑)。でも、演奏している私たちからすると、お客さんに襲い掛かっているような感じがして楽しかったです(笑)。
──ちなみに「よっちゃん」って誰ですか?
うーん、どうしようかなぁ……秘密にしときます(笑)。
──また、「ダンスダンスダンス」は歌っているのか喋っているのか、すごく特徴的です。
『フェルマータ』の中で一番自分で自分にビックリした曲でした。私の作詞作曲ですけど「こんな曲も作れるんだ!?」っていう自分自身に対する驚きと、こういう音楽も意外と好きだなって(笑)。メロディから考えるのではなくビートに乗って曲作りをしてみようと思ったのがキッカケです。試してみたら一気に完成しました。本当に1日で作りましたね。
──歌と喋りの中間のような自由な歌い方が面白いです。ただ、この歌詞も杏沙子さんの素が出ているような気がしました(笑)。
この曲の制作中に友達から恋愛のグチをすっごい聞かされていて、もうそれがほぼです(笑)。その友達が聞いたらスグに私の曲だなって分かるぐらいの内容ですね。
──それは作詞にクレジットしないと(笑)。
入れて欲しくないと思いますけどね(笑)。不満を持っていても彼には言わず、けれど心の中はグルグルしている。手のひらで彼を転がすつもりだったのに自分が勝手に踊っている。傍から見ていると踊らされているなと思って、それで「ダンスダンスダンス」ですね。
──アウトロのつぶやきはアドリブですか?
つぶやこうとは決めていて、パッと考えて何となくメモしていた内容をそのままブツブツ言っています。一発OKでした。ブツブツ喋っている事実が面白いなと思ったので、イヤホンで真剣に聴いて貰ってやっと分かるぐらいでいいかなって。
──そして、ミュージックビデオ再生回数が500万回を突破している代表曲の1つ「アップルティー」を再レコーディングされています。
とても大切な曲です。だから、メジャーという舞台でも置いておきたくて。それで、今の私が歌う「アップルティー」を収録したいなと再レコーディングしました。
──幅広い年代が口ずさめるメロディと歌詞で、一度聴いたら忘れられない強烈なインパクトがある曲です。
本当に「どうやって出来たんだろう!?」と今でも思います(笑)。メジャーデビューしてから「良い曲を作りたい!」という想いに捉われていた時期がありました。結局そのトンネルからは抜けられたんですけど、「アップルティー」を制作した時は、良い意味でそういう気持ちが一切ありませんでした。当時は曲作りを始めて間もない頃で何の邪念も無かったというか、だからこの曲が出来たのかもしれないですね。純粋に自分がいいと思う曲を自由に作っていたからメロディも歌詞も自然に出て来たし、だからこそ聴いてくれる皆さんに響いたんだろうなって思います。良い曲を作りたいという想いに捉われて、自分で自分を縛ってしまっていた時期があったなかで完成したフルアルバムということもあって、『フェルマータ』というタイトルに行き付いたのもありますね。曲作りを始めた頃を思い返して、その姿勢のままでずっといたいなという気持ちを思い出させてくれた曲でもあります。
──「アップルティー」は「JTBついてる!Hawaiiキャンペーン」TVCMソングに決定しています。
JTBの皆さんやCMソングに推薦してくださった皆さんが「アップルティー」を気に入って選んで下さって本当に嬉しいです。CMで私の歌を初めて耳にした人にも『フェルマータ』を聴いて貰えたらなって思います。
──ツイッターに「今日はスタジオの照明を暗くしてレコーディングしたよ」とありました。この曲は「おやすみ」ですか?
正解です。
──そのツイートは「音楽は音を奏でている本人でも予測できない、小さいけど大きな意味を持つ変化が、ちょっとしたことで起きるからおもしろいね」と続きます。何故照明を暗くしてレコーディングされたのですか?そしてどんな変化があったのですか?
照明を付けていると良い歌を歌おうと気負ってしまって。今自分はスタジオに立っていて目の前にマイクがあって、無意識でも少し力が入ってしまうんですね。「おやすみ」は特にそうなってはいけないなと思いました。正直レコーディングの時にマイクの存在は邪魔なんですよね(笑)。ライブは目の前のお客さんに向かって歌えますけど、レコーディングはマイクに向かって歌うので、歌がそこで止まってしまう気がします。それが嫌だなと思ったので、レコーディングをしている事実を忘れて、部屋で曲を作った時のような感覚で歌いたいと思って照明を消しました。
──ところで、「歌う前に必ず使うグッズや、必ず行うルーティンが一見ヘンテコなものが多すぎて」、周囲の皆さんに突っ込まれているそうです。「わたしにとっては1つ1つ歌に繋がる大切なひみつ道具」があるそうですが、これもやっぱり秘密ですか(笑)。
これは大丈夫です(笑)。最初はストレッチをします。そこまでは普通です。その後に一本歯の下駄を履きます。
──カラス天狗みたいです(笑)。
本当そうなんですよ(笑)。みんなに「エッ!?」って顔をされますね。普通は二本歯ですけど前の歯が無くて後ろの重心で立って、しばらくバランスを取ります。そして両手で手ぬぐいをピーンと張って伸ばして肩甲骨の運動をしたりするんですけど、その恰好を見た人が「それは衣装なの?」みたいな(笑)。絶対変な顔をされますね(笑)。ツボを押す「骨盤職人」という器具もあったり、そういうグッズで体をほぐしたりバランス、重心を整えたりします。あとは風船を吹きます。詳しく言うと腹筋を使ったら良い歌が歌えないと思っているので、腹筋を使わずに声を出すための練習です。可愛い色の風船を本番直前までずっと膨らませては萎ませてを繰り返しているんですね。だからよく、「この子は本番前にふざけているのかな!?」と思われがちですね(笑)。
──SNSの話でもう1つ、インスタグラムに「『自分のためだけに、自分の曲を書こう』そんなこと思ったことなかったけど、初めてそう思って書いた曲がついに形になって。」とありました。
それは「とっとりのうた」です。
──「自分のためだけに、自分の曲を書こう」と思われたのは何かキッカケが?
それこそさっきの話のように、メジャーデビューして環境が変わって、関わって下さる方も増えて行く中で、周りの人が評価してくれる曲を作りたいという風に、いつからか曲作りの姿勢が変わっている事に気付いて。それがドンドン自分を見失っていく事に繋がって、何を作ってもパッとしない時期が何ヶ月か続きました。この曲は本当に良いのか?誰かに言って貰わないと作品の良し悪しが分からない。それでモンモンとしていた時に、「道」や「アップルティー」は誰かに評価して貰いたいがために曲作りはしていなかったなと思い出して。それらの初期の曲や『花火の魔法』を聴いてくれている方々は、私が良いと思って作った曲を求めてくれるのではないかなと思って。それで原点に立ち返って、誰も評価をしてくれなくても構わないから、自分のためだけに自分の曲を書こうと思って出来た曲が「とっとりのうた」です。
──冒頭でも言いましたが『フェルマータ』は曲順が絶妙です。ですが、「とっとりのうた」だけふと、最後の最後に追加されたのではないかなという気がしたもので。
確かに最後に出来上がった曲です。様々な方に楽曲を提供して頂いて、「よっちゃんの運動会」「ダンスダンスダンス」のように今まで私がやって来なかった事もいろいろやってみて楽しかったけど、未来の自分ばかりで今までの自分がこのアルバムにいるのかなと不安に思った時期がありました。何かあと1曲カケラが足りない。そういう意味でも自分のためだけに作った曲を入れないと完成しないなと思ったんです。それで、実は曲作りのためにレコーディングを先延ばしして貰って「とっとりのうた」を書きました。
──鳥取は杏沙子さんの生まれ育った故郷です。そして歌詞には「この場所にだけあるなにかを/たしかに吸い込んで/また歩き出す この場所から」とあります。最後に今のご自身の想いを描く事で、さらなる未来に繋がるアルバムになりましたね。
未来を見つめ続ける事も素晴らしいと思いますけど、立ち止まって今自分が何処にいるのか、未来に向かう地図の現在地を自分自身が確認したかったんだなと思います。「とっとりのうた」を最後に置く事で、『フェルマータ』は完成しました。
取材・文:岡村直明
< LIVE >
杏沙子ワンマンライブ「fermata」supported by JTB◆3月15日(金) 【大阪】OSAKA MUSE 開場18:30 開演19:00
(問)サウンドクリエーター https://www.sound-c.co.jp/ 電話:06-6357-4400
◆3月30日(土) 【東京】shibuya TSUTAYA O-EAST 開場17:00 開演18:00
(問)HOT STUFF PROMOTION https://www.red-hot.ne.jp/ 電話:03-5720-9999
[席種] オールスタンディング
[チケット代] 前売り4,320円(税込/ドリンク代別)
[一般発売日] 2月23日(土)
※最新のライブ情報はオフィシャルサイトをチェック!
http://asako-ssw.com/