デビュー20周年を迎え、13年ぶり7枚目となるオリジナルアルバム『アイハベル』をリリースしたKiroroに直撃インタビュー。玉城千春(Vo)と金城綾乃(Pf)の2人は、ともに3人の子供を持つ母親として沖縄で育児をしながら音楽活動を続け、4年前からライブ活動を行っている。その中から生まれた今作について玉城は「Kiroroは40才になり、年相応の、今しか書けない、今だから書ける内容になりました」とコメント。母親としてアーティストとして過ごす日々の想いから紡がれた、日常に優しく寄り添う歌詞とメロディは、これまでのKiroroの楽曲同様に、幅広い世代の共感を呼びそうだ。コンサートでギターを弾いている片山義美と一緒にアルバム制作をスタートさせた経緯から、沖縄の言葉で「美しい蝶」という意味のアルバムタイトルやリード曲「アニバーサリー」の作詞エピソードを、まるで仲の良い姉妹のような掛け合いを交え楽しそうに語ってくれた。
──13年ぶり7枚目となるオリジナルアルバム『アイハベル』がリリースになります。リリースに先駆け、無料映像配信サービス「GYAO!」で生配信された「Kiroro 20周年記念スペシャルライブ 『20年間ありがとう!〜みんなが聞きたいキロロの歌あつめました〜』」を拝見しました。とても素敵なライブでした。ピアノと歌だけで心を揺さぶられる、それはきっとKiroroさんが紡ぎ出すメロディと歌詞の力なんだろうなと思いました。
金城綾乃(以下、金城):ありがとうございます。これからの糧になります(笑)。
──そのライブで玉城:さんが、4年ぐらい前からKiroroとして少しずつライブをやっていたとおっしゃっていました。どのようなキッカケからライブを始められたのですか?
玉城千春(以下、玉城):(金城に向かって)子育てが少し落ち着いたからだよね。綾(金城綾乃)が3人目の子育ても落ち着いた頃で、「そろそろ活動してもいいよ」という話になったのでライブを始めたんじゃなかったかなぁ。
──近年のライブはギタリストとして、男女2人組バンド「KATA-KANA(カタカナ)」の片山義美さんが参加されています。片山さんのブログを拝見したところ、「2015年6月からKiroroさんのライブに参加する事になりました」とありました。
金城:その前から2人ではライブをやっていましたね。
玉城:4年ぐらい前から月に1、2回はライブをやっていました。その後にオーディションをやって、片山君にギタリストとしてライブに参加してもらう事になったんです。
──片山さんのブログには、さらに「(Kiroroさんのライブは)毎回感動の嵐です」、「3人で歌う時は身震いしてます」とつ綴られていました。
金城:ホントですか?片山君は私たちの音楽にすごく想いを寄せてくれるんです。私たちが思いの丈を伝えると、それをシッカリと受け止めて寄り添ってくれます。だから、ビッと息が合って2人でやっている時と変わらないモチベーションでライブに挑めるんです。本当にありがたいなと思います。
──今回の『アイハベル』では、「アニバーサリー」「あなたに会えなくなって」「鳥かご」「OK OK」の4曲の作曲に「ちはる・あやの・よしみ」とクレジットされています。ずっとライブをご一緒していたこともあり、アルバム制作においても片山さんの存在が大きいのかなと思いました。
金城:片山君がいなかったらアルバムが出来なかったかもしれないです(笑)。
玉城:私達のマネージャーが彼を沖縄に送り込んで来たんです(笑)。
──どういうことですか?(笑)
金城:私たちは曲作りがゆっくりなんです。曲作りモードに入るのも時間が掛かっていて、想いを語り合って終わってしまったり録音も覚束なくて(笑)。それで子供を迎えに行く時間が来て、すぐ主婦の日常に戻ってしまうんです (笑)。
玉城:曲が出来ても伴奏をお願いしたりとかアレンジを詰めたりとかまでなかなか進まなかったので。
金城:マネージャーがシビレを切らして動き出したんですよね(笑)。
玉城:「片山君、行って来い!」って(笑)。それで一緒に曲作りを始めたんです。片山君が録音機材も用意してきてくれて、マイクのセッティングまでシッカリとやってくれました。想いを歌うだけですぐにデモテープが作れたのも彼のおかげです。
金城:昨年の前半に3回ぐらい、東京から遥々沖縄まで来て貰いました。片山君が来てくれたことで「ここで集中してやらなければ!」という気持ちになりましたね。彼はちょうど10歳年下なんですけど、すごくシッカリしていて私たちを引っ張ってくれるんです。私たちがゆるーい感じなので(笑)。
玉城:とはいえ彼も沖縄の石垣島出身だから、そのゆるさも理解してくれて曲作りをすごく楽しんでくれるんですよね。
金城:だから、心を開いて思いの丈をぶつけながら曲作りが出来ました。
玉城:それに私たちは機械の扱いも苦手だから、マネージャーに出来た曲を送るのにも時間が掛かってしまうし(笑)。
金城:「誰が送る?」とかね。
玉城:「パソコンに取り込むのはどうするの?」とかね(笑)。
──『アイハベル』の制作は、いつ頃からスタートしていたんですか?
玉城:一昨年の春くらいに東京で打ち合わせをしました。実は3年ぐらい前からアルバム制作の話は持ち上がっていたんです。
金城:そういう話がありながら、曲がなかなか仕上がって来なかったという(笑)。
玉城:最初に綾が「ブランコ」を作って来ました。2016 年の沖縄コンサートのアンコールで初めて披露した曲です。それで、アルバムを作るとなった時に「ブランコ」を軸に、それ以外のいろんな曲のバリエーションを考えながら私は曲を作りました。
──「ブランコ」は、当たり前の日常生活にある幸せを気付かせてくれる素敵な歌詞です。
金城:ある晩に子供たちを寝かし付けて、その寝顔を見ながら「この子たちと無事に1日を過ごせてやっぱり幸せだなー」と思ったんですよね。でも、子供たちが成長していつかは手を握れなくなるだろうし、誰でも命には限りがあるから、この時は永遠じゃないんだなと思って。そんな事を1人で考え出したら、今日という日もすごく大事だなという想いが溢れ出て来て。その想いのまま出来た曲です。
玉城:母親は日々「頑張らなくちゃ!」と思ったり「大変だけれど幸せだな」と感じたり、ブランコのように行ったり来たり気持ちが揺れ動きます。そんな日常の中の大切な想いを歌っているなと思って、初めて聴かせて貰った時にすごく感動したのを覚えています。
──「ブランコ」の歌詞に共感する人は多いのではないでしょうか。その「ブランコ」を軸に、収録曲はどのように選んで行ったんですか?
玉城:「ブランコ」からバリエーションを考えて曲作りをしたので、出来た曲からレコーディングをして行きましたね。
金城:新しい曲を生み出しながら、デモも作りながらライブもしながら、家事も育児も同時進行で日々作り続けました (笑)。
──『アイハベル』の制作中は八面六臂の大活躍だったんですね。
金城:かなり忙しかったですね。
玉城:だから、昨年はいい意味で充実した年でした。
──アルバムタイトルは、制作のどんなタイミングで決められたんですか?
玉城:レコーディングが全部終わってからです。
金城:タイトルを決めなければいけない締切の日に決めました。
玉城:決めないと沖縄に帰さないみたいな感じでしたね(笑)。
──『アイハベル』は沖縄の言葉で「美しい蝶」という意味だそうですが、資料の玉城さんのコメントを読むと誰かにお聞きになったようでした。
玉城:スタッフさんに教えて貰いました。ジャケットも含めアルバムトータルのイメージとして「蝶」を考えていました。デビューした時にある人から「君たちは青虫だ」と言われた事があって。当時の私たちは青臭いイメージ、田舎者という感じだったのでそう言われても「そうだよねー」と思っていましたけど、シングルの「長い間」のジャケット撮影の時にもカメラマンさんに「虫になれ!虫になれ!」とずっと言われたんですよ(笑)。表情が作れないしポーズも出来なかったから、動作のイメージを伝えようとしてそう言ったんだと思います。そういういろんな事があって、スタッフさんたちから「君たちは蝶になるのかね?蛾になるのかね?」と言われたんですよね。でも、それらはきっと期待を込めて言ってくれたんだろうなと思っています。プロデューサーさんもスタッフさんもみんな私たちのために頑張ってくださっていたから、厳しい言葉もシッカリと受け止めていました。「デビュー出来たからといって売れる確率も少ないし、1年経って結果が出なかったら沖縄に帰るんだよ」「結果が出ないアーティストのほうが多いんだよ」という事も言われていたんです。だからこそ20周年を迎える今、皆さんの期待に応えられるように、自分たちが輝ける蝶になれていたらいいなという想いがあって。
金城:それで「青虫から蝶になれているのかな?」という想いから、ジャケットも蝶をデザインしたいねという話になりました。だからタイトルも蝶のイメージからしっくりくる言葉を考えていたんです。
玉城:英語の「butterfly」とか蝶に関する言葉をいろいろ調べている中で、スタッフさんが「沖縄の言葉で『ハーベールー』というのがあるよ」と教えてくれました。それがいいねという話になったんですけど、私の親に電話で確認を取ったら、蝶もそうだけどアブとか蛾とかそういう部類を全部「ハーベールー」と言うらしいんですよね。しかも、蛾とかアブのほうが意味合いが強いと言われたからこの言葉は使えないなと諦めたんです。それでどうしようかと話をしていた時に、今度は親から電話が掛かって来て、「アイ」を付けて「アイハーベールー」になると「美しい蝶」という意味に変わるらしくて、琉歌という琉球の音楽の歌詞にもあるそうなんです。それが分かって「『アイハベル』で行けーっ!」とタイトルが決まりました。
金城:次の日がジャケット撮影だったんですけど、その時にはもう「タイトルは『アイハベル』だから」とスタッフさんたちに断言していましたね。
──リード曲の「アニバーサリー」は、歌詞にKiroroさんの楽曲タイトルが詰まっています。Gyao!のライブでは、最初から曲名を入れようと考えて作詞したのではないとおっしゃっていました。
玉城:Kiroroと片山君で初めて作った曲だったので、3人のステージを思い出してライブのオープニング曲の歌詞から書き始めたんです。「初めましての方も 久しぶりの方も こんにちは 私たちがKiroroです」と始まる自己紹介の歌があるんです。それに続く歌詞はライブを行う場所によって毎回変えて歌っています。その会場のある土地の事とか、そこで食べた名物とかを歌詞に入れるんですよね。
金城:毎回、開演前に楽屋で歌詞を考えています。
玉城:「アニバーサリー」の「初めましての景色も」という歌い出しは、そのオープニング曲のフレーズから考えました。そこから、ステージが私たちの帰る場所だなと思って「そこが私たちの帰る場所」と書いて。そんな風に3人でやっているライブを思い出しながら「長い間」とか歌詞に書いて行ったら、「Kiroroの曲名を入れてみよう!」という感じになりました(笑)。書き始めてからスラスラと出来た曲です。ただ、大サビは悩みました。いろんな曲名があるし書きたい事も沢山有り過ぎて、どの曲のタイトルを入れようかなと悩んだ結果「Best Friend」を選びました。曲が出来上がって、スタッフやマネージャーから「歌詞にKiroroの楽曲タイトルが散りばめられているから、この曲をリードにしたい」という話を貰ったので。
金城:それで20周年記念に相応しいキャッチーなタイトルを考えて。
玉城:想いを込めてタイトルは「アニバーサリー」と付けたんです。
──スラスラと出来た「アニバーサリー」とは逆に、25年を経て完成したという曲が「Let's Go Together」です。資料に「中3の時、『未来へ』の後にサビだけできていて、ずっと温めていた。というか、仕上げられずにいました」とあって、中学3年の時に「未来へ」を書いていたと知って驚きました。
玉城:すごいですよね。自分でも信じられないです(笑)。
──「Let's Go Together」は後半のコーラスの掛け合いが圧巻です。ゴスペル・アレンジにされたのはどんな理由からなんですか?
玉城:大勢で壮大に歌いたかったんですよね。それで、ゴスペルシンガーの田中雪子さん、私たちは「ゆっきー」と呼んでいるんですけど、彼女にアレンジをお願いしました。ゆっきーはコンサートのコーラスを担当して貰ったことがあるんです。
金城:もう15年ぐらい前からお世話になっています。
玉城:彼女はNHKの番組でコーラスやゴスペルアレンジをしていたので、マネージャーが「ゆっきーがいいんじゃない」と言ってくれたので声を掛けさせて貰いました。
──また、「ラララ」と「無敵なBig Smile」の2曲は、アレンジとギターが石崎光さん、ドラムが玉田豊夢さん、ベースがくるりの佐藤征史さんという豪華メンバーでレコーディングをされています。
玉城:ご一緒したのは初めてです。ギタリストのアレンジャーが良いのではという話になって、スタッフに石崎さんを紹介していただきました。ただ、レコーディングまでお会いする機会が無くて、その間はメールとデモ音源でしかやり取りが出来なかったから、探り探りで時間が掛かってお互いに苦労しました。
金城:でも、レコーディングで初めてお会いしたら、とても素敵な方で。
玉城:お会いして私たちの想いを伝えたら「そんなの全然OKだよ!」と言ってくださって。「ラララ」は大サビを後から足したり面白い仕上がりになりました。一方の「無敵なBig Smile」はピアノとベースの音が恰好いいアレンジにしたかったんですよね。
金城:こういうパキッとしたロックなピアノはなかなか弾く機会も無かったですし、気持ちよく弾かせて貰いました。すごく楽しかったです。
──さらに、ボーナストラックとして、復興を応援するNHK東日本大震災プロジェクトのテーマソング「花は咲く」をカバーされています。
金城:2年ぐらい前からライブで歌っています。
玉城:綾が「この歌を歌って欲しい」と持ってきたんです。ライブでカバー曲を歌う事はありましたけど、綾に言われてからは「花は咲く」を歌っています。やっぱり、この歌は歌い継いでいかなければいけないなと思ったんです。そうしたら、マネージャーが「今回のアルバムに入れよう」と提案してくれました。
金城:それで、急遽ボーナストラックとしてレコーディングしたんです。二人で「せーのっ!」で一発録りしました。
──玉城さんの歌声が他の曲とは違っていて、最初に聞いた時は驚きました。
玉城:普段とは違う歌い方をしています。歌っているうちに自然とこの歌い方になった感じです。だから、沖縄のラジオのDJさんも私が歌っていると思っていなかったみたいです(笑)。
金城:ラジオで私が歌っていると放送してしまったらしいんですよ。そのぐらい歌声の印象が全然違うんだなって思います。
──そして、『アイハベル』を携えて、5月から全国ツアー「Kiroro “アイハベルが舞う” Tour 2018」がスタートします。
金城:バンドと一緒のツアーは本当に久しぶりです。いつもはピアノとギターの伴奏ですけど、バンドで演奏するのもまた違った楽しさがあります。バンドのメンバーと楽器を合わせて演奏する心強さと安心感、それに高揚感と。そういうのが味わえるんだなと思うとワクワクします。
玉城:今やって来ているライブとはまた違った表現、ステージになるんじゃないかなと思っています。この3年間にやってきたライブは、これまでのKiroroの曲を歌っていました。今回のツアーは今まさに出来上がった楽曲、今の私たちの想いから生まれた歌でステージに立つ事が出来るので、すごく楽しみですね。
取材・文:岡村直明
< LIVE / EVENT >
Kiroro “アイハベルが舞う” Tour 20185月12日(土) 【千葉】 市川市文化会館 開場15:30 / 開演16:00
[info.] ソーゴー東京 : 03(3405)9999
http://www.sogotokyo.com/
5月18日(金) 【大阪】 大阪フェスティバルホール 開場17:30 / 開演18:30
[info.] キョードーインフォメーション : 0570(200)888
http://www.kyodo-osaka.co.jp
5月19日(土) 【愛知】 刈谷市総合文化センター大ホール 開場16:30 / 開演17:00
[info.] サンデーフォークプロモーション : 052(320)9100
http://www.sundayfolk.com
5月27日(日) 【東京】 東京国際フォーラムC 開場16:30 / 開演17:00
[info.] ソーゴー東京 : 03(3405)9999
http://www.sogotokyo.com/
6月10日(日) 【沖縄】 沖縄コンベンション劇場 開場16:30 / 開演17:00
[info.] PMエージェンシー : 098(898)1331
http://www.pmnet.co.jp
■料金指定席:¥6,800
■チケット発売日:3月3日(土) 10:00より各プレイガイドにて販売
※各公演の詳細、最新のライブ情報はオフィシャルサイトをチェック!
http://www.victormusicarts.jp/kiroro/top.php