21歳でEXILEのボーカリストとしてデビューした清木場俊介。紅白歌合戦で「Choo Choo TRAIN」を唄ったのは23歳のとき。24歳からソロ活動を始めた。26歳で脱退。28歳にして、ソロで武道館を満員にし、事務所を設立。常々、「自分の居場所はライブだ」と公言し、大阪城ホールから周南TIKI-TAまで、男性限定ライブから夏フェスまでと、生唄を届けることができる場所を積極的に求めてきた。ソロ10周年だった昨年は、アコースティックアレンジによる『唄い屋・BEST Vol.1』をリリース。好評を博したのは記憶に新しい。
そうした軌跡のなか、新曲「軌跡」が生まれた。プロデュースは、初顔合わせとなる、亀田誠治。東京事変での活躍は言うに及ばず、平井堅、JUJU、絢香、スピッツなど、あまたのヒット曲も手がけてきた音楽プロデューサーだ。
「いつものセルフプロデュースだと、自分の中で見えている完成形に向かってレコーディングを進めるわけですが、今回は全然違いました。亀田さんには見えていたのかもしれないけど、僕には見えていなかったから、どうなるのか、ワクワクしました。それは21のときの初めてのレコーディングと同じ楽しさでした」
亀田が作曲したメロディが届いた翌日、清木場はもう歌詞を書き上げていたという。
──涙の理由は悲しむ為だけのモノじゃない──。
この一節の裏側には、たとえそのときは悲しくて泣いたとしても、涙したからこそみなぎるモノがあると、清木場なりの人生観が貼り付いている。もっと突き詰めれば、涙さえも迷いさえも生きている証しであると、生きることにマイナスはないと、唄っているようにも聴こえる。
「音楽を心底楽しみながら作る、亀田さんの姿に影響を受けました。レコーディング中、思うように進まず、うーんと悩んでいるときも、どうしようか解決策を探しているときでさえ、楽しそうだったから。「前進」と書いた紙を壁に貼って眺めるのは簡単。「常に前向き」と口で言うだけなら、誰でもできますよ。でも、それを実際にやっている亀田さんを尊敬します」
もしかするとだが、清木場は目の当たりにした亀田の姿勢、つまり亀田の前進力、それを歌詞としてつづったのかもしれない。新曲を作る亀田との軌跡を描いたということだ。
別の角度から聴けば、盟友であるEXILE ATSUSHIとのことを唄っているとも受け取れなくもない。昨年、8年ぶりの共演を果たした彼ら。そのとき、言葉にするのが照れ臭かった胸の内をつづったとしても不思議はない。
それとも…。
いや清木場のモチベーションがどこにあろうとも、「軌跡」は聴く者に寄り添ってくる。幼なじみ、恋人や家族、逝ってしまったあの人、親友やクラスメートなど、聴く者により、さまざまな「君」が姿を現わす。人生は出会いと別れでできている、という普遍的なテーマを唄っているからだろう。
「亀田マジックですかね、唄うのは難しかったのに、完成したのを聴くと、最高に聴きやすいのは。自分でも楽々と唄ってるように聴こえるし(笑)。でも、ライブで唄う前には、しっかりリハーサルしないと、この(CDの)クオリティーでは唄えません。もしもカラオケに行って、完璧に唄える人がいたら、明日からでもプロになれますよ」
楽しかった日々を晴れやかな表情で語る。亀田効果だろうか、清木場自身も心の底から音楽を楽しめたレコーディングだったようだ。
もう1点の「軌跡」の聴きどころがコーラスだろう。それほど自己主張しているハーモニーではないが、繊細かつ柔らか。
「ハモリも、亀田さんと相談しながら、入れて行きました。ここはもう一声足そうかとか。ソロになってからは、厚いコーラスを入れることはなかったけど、グループ時代はけっこうハモッてましたから、ある意味、懐かしさもありました。実は、ハモリは得意なんです。デュオとかの唄を聴いても、ハモってるラインのほうが耳に入ってきますから」
清木場俊介は感情型ボーカルと思われがちだが、緻密に組み立てることもできる。そちらも得意らしい。「軌跡」を聴けば、どれだけ得意なのか、一耳瞭然。
そんな清木場は、現在、35歳。
「今はまだ未来に向かう唄が多いですね。でも、40代になったら、振り返れるようになるかもしれません。そのときの自分とそれまでの自分、そこの帳尻が合うのが40代だと思うから」
「軌跡」も過去を懐かしがる唄ではない。先へ進むための唄だ。カップリングの「Sunrise」も同様。
ちなみに「Sunrise」は、いつも通り、清木場のセルフプロデュース。演奏もいつものライブバンドのメンバー。「軌跡」が聴いて気持ち良い唄なら、こちらは一緒に唄って気持ち良い唄。是非、清木場と声を重ねてみてもらいたい。そうすれば、なぜ清木場ライブが多くの人たちを惹きつけるのか、その一端だけでも実感していただけるだろう。
──誰かに笑われてもいい!貫いてやる!──
言霊。やや使い古されてしまった言葉だが、その力が衰えたわけではない。玉石混交の度が増しただけ。有言実行の清木場のそれはギラッと輝く玉だ。そして、先の一節は、言霊ならぬ唄霊でもある。
──ここまでやって来ただろ?まだこれからさ!──
清木場俊介の軌跡はこれからのほうがきっと圧倒的に面白い。
文章:藤井徹貫