緩やかに、しかし確実に、ニューシングル『BRIGHTER DAY』は安室奈美恵がまた次なる章へと歩み始めたことを予感させてくれる一枚だ。タイトル曲「BRIGHTER DAY」、そしてカップリング曲「Still Lovin' You」に顕著な日本語メインのリリック、その温かな言葉をすぐ傍らにいる“あなた”に語るように歌う柔らかな彼女の歌声を聞けば、誰もがそう感じるに違いない。
昨年リリースされたアルバム『FEEL』では、自らの音楽性の原点とも言える<時代を象徴するカッティングエッジなダンスミュージック>を追求するため、EDMを自身のスタイルで昇華したサウンドを従え、ほぼ全編を英語詞メインで歌い貫いた安室奈美恵。
だが「BRIGHTER DAY」のリリックは、あの大ヒット曲「Love Story」の作詞をてがけたTIGERによる日本語詞主体の“揺るぎない絆”の物語。シンガー、安室奈美恵の体温さえ感じるその言葉と歌声に、「先入観なく感じたままを楽しんでほしい」というかねてからの思いを形にした『FEEL』の頃とは明らかに、安室奈美恵の中の何かがまた変わり始めていることに気づく。
時代を生き抜く強い女性像を歌い続けて来た安室奈美恵。だからこそ、女性同士の激しいマウンティングを描いた沢尻エリカ主演のドラマ『ファーストクラス』の主題歌となった「BRIGHTER DAY」を、ドラマの過激さを煽るアッパーな楽曲にする案もあったに違いない。だが敢えて彼女は、闘う女性たちの涙と悲しみにそっと寄り添う「BRIGHTER DAY」を作りあげた。ドラマの余韻を抱きしめるように癒すこの曲が、レイヤードされたシンセのビートがアクセントを放つコンテンポラリーでポップなR&Bチューンである点も含め、もしかすると彼女は今、もう一度リスナーの心に寄り添う歌を届けたいという、シンガーとしての自らの原点に回帰し始めているのかもしれない。
とは言え、安室奈美恵がやすやすと守りに入るはずはない。すでにCM曲としても話題の「SWEET KISSES」は、60'S ポップスのリズムが21世紀のサウンドとして軽やかに弾けるポップチューン。パステルカラーの衣装を身にまとい、クラフト感あふれるポップアートを背に歌い踊るMVも含め、恋の始まりのドキドキをコケットに歌う彼女の姿に、安室奈美恵が永遠に強がりな女の子たちの味方だということを再確認する。
一方、3曲目に収録されたミドルなR&Bチューン「Still Lovin' You」では、21世紀版「SWEET 19 BLUES」とも言える普遍の愛をさらりと歌う。実はいくつものギミックが使われているにも関わらず、アコギとピアノとスネアの音色がオーガニックでシンプルな印象を作り出すトラックも含め、まさに人生や恋の辛酸を知る大人だからこその普遍の愛の歌、だ。
友情、そして普遍の愛と、それぞれ距離や形の違うラブソングが詰まった『BRIGHTER DAY』。この一枚でも確認出来るように、時と共に変わり続けながら、シンガー、安室奈美恵はリスナーの心に寄り添うために歌い踊る。もちろん、これからもずっと。
text:早川加奈子