Bon Voyage=よい旅を!
倖田來未のニューアルバムの冠には、旅立つものに対して言う、挨拶の言葉が付けられている。このタイトルには、自身の音楽を通して、聴き手を“ここではない、どこか別の世界”に連れて行きたいという思いや、日本の音楽や文化をもっと世界中に届けたいという気持ちに加えて、勇気をもって、前向きな旅立ちをしてほしいという願いも込められているようだ。
※もちろん自分自身の音楽人生への期待も込もった言葉。的な意味合いもあるといいな、と。
倖田來未(以下、倖田):倖田來未としては、いつ何時であれ挑戦し続けたい、常に進化を求めていきたいっていう気持ちがあって。特に今回は、復帰後初、30代になって初のアルバムで、前作『JAPONESQUE』から2年ぶりのアルバムでもあるので、私自身、新しい倖田來未が見たいって思ってたんですね。変化/成長するためには、失敗を怖れずに新しい旅に出ないといけないし、そんな自分自身に向けても、このアルバムを聴いてくれるみんなに対しても、次の一歩を踏み出してほしいというテーマで書いた曲が多くなっています。
昨年12月6日でデビュー13周年の記念日を迎え、14年目に突入。これまでも後ろを振り返らずに、新しい世界へと飛び出し、様々なミュージシャンと音楽性を磨き上げてきた彼女の11枚目のアルバムからは、これまで以上の“変化”を感じる。その、最大の要因はリリックの違いだろう。<愛の伝道師>と称された彼女だが、本作におけるラブソングは、54枚目のシングルとしてリリースされたバラード「恋しくて」のみとなっている。
倖田:私にとっては“愛”というのは大きなテーマではあるけれども、今回は一度、脱・恋愛でいきたいなって思ったんですよね。もちろん、結婚して、子供も産んで、新しい愛に出会ったからこそ感じることもある。一生、恋愛の曲を書かないってわけではないんだけど、バラードはすでに、「愛のうた」「you」「hands」「walk」「All for you」っていう、ライブでみんなが聴きたいって言ってくれる定番の曲が多い。だから、ここで一度、違うテーマに挑戦してもいいのかなって思って。また、今回は作家さんの歌詞で歌わせてもらっている曲もあります。この作品を創っていく過程で、新しい発見もあったし、私の中では結構なトライでしたね。
音の面でもこれまでとは明らかに異なる要素がある。海外からの参加アーティストは、相変わらず刺激的な面々がそろっており、世界的なコリオグラファー/ディレクターであるファティマ・ロビンソンとのコラボが大きな話題を集めた「LALALALALA」や、ビヨンセやOne Directionも手がけたヒットメイカーのトビー・ガッドによる「Touch Down」に続き、デヴィット・ゲッタ&ケリー・ローランドのヒット曲「When Love Takes Over」で知られる美人双子DJのナーヴォ、レゲエ界の貴公子ことショーン・ポール、台湾のインディーズシーンで活躍するミクスチャーバンド、OVDSが参加。強い女性を体現したロック系の曲は少なめで、ドラムンベースやブレイクビーツ、レゲエ、オルタナティヴなヒップホップ・ソウルなどを取り入れた最新のダンストラックが中心。そのサウンドは、生楽器と打ち込み、オールドとニューを融合したハイブリット・ソウル寄りで、メロディが際立つシンプルな音像を構築している。各曲の歌詞に力強いメッセージが込められているのは事実なのだが、誤解を怖れずに言えば、本作は、言葉の意味を頭で考えるよりも先に身体で音を感じる、高揚感を誘うダンスアルバムとなっているのだ。
倖田:映像では新しい監督、ダンスは新しい振付師、楽曲面では新しい作詞家…新しいことにトライしたことが多い作品なので、これまでの倖田來未のカラーとはちょっと違う、すごくおもしろいアルバムになったかなって思います。ずっと応援してくれてるファンの皆さんには馴染みのないサウンドが多いかもしれないけど、倖田來未というフィルターを通して、日本語で歌ってる分、聴きやすいかなと思うし、音楽好きの方が聴いたら、きっとカッコいいって思ってもらえるんじゃないかなと思ってて。音楽のジャンルやトラックの雰囲気は本当にいままでとぜんぜん違うので、ファンの皆さんはもちろん、ファン以外の方にも、色眼鏡を外して手にとっていただけたら、きっと気に入ってもらえるんじゃないかと思いますね。
●倖田來未、本人による楽曲解説
02.「SHOW ME YOUR HOLLA」
アルバムのタイトルである『Bon Voyage』をテーマに、出航するとき、旅にでるときの、なんともえいないドキドキわくわく感を書いた曲。私自身を船に例えて、新しい航海への舵を取ろう、そんなに簡単じゃないけど、荒波を潜り抜けてスペシャルな場所へと連れて行ってという内容の歌詞になってます。MVは、いろんな要素をそぎ落としてシンプルに歌とダンスを中心にした映像になってて。全身で見せるダンスと歌をクローズアップして、楽曲の良さが引き立つ作品になったんじゃないかと思います。振り付けは、世界中でワークショップを行っている若手の女性コリオグラファーにお願いして。これまでにはない表情や動きが取り入れられて、良い意味で新しい倖田來未を印象付ける楽曲に仕上がったのではないかと思います。
03.「LOADED feat. Sean Paul」
「Touch Down」の制作でトビー・ガッドのLAのスタジオに行ったときに、“この曲なんてどう?”って聴かされたのが、この「LOADED」。デモをショーン・ポールが歌ってて。私、ショーン・ポールが大好きだったので、ぜひ歌わせてももらいたいってお願いして。歌詞は、酒浸りの曲ですけど、それも倖田來未っぽいのかもしれないですね(笑)。
04.「Winner Girls」
いままでの倖田來未の楽曲でいうと、「show girl」に近い世界観。船上パーティーを楽しんだ夜を経て、朝起きるシーンからストーリーがスタートします。マリンルックの女の子たちが、男の子の水兵さんをセクシーに誘いながら、船を掃除しているっていうイメージは、ジャケットのビジュアルともリンクしてますね。サウンド的には、昔っぽいサウンドを取り入れたおしゃれな1曲で、ハモの積み方をちょっと今どきっぽくしてる。ライブでサビをみんなが口ずさめる楽曲になったらいいなって思ってます。
05.「Imagine」
冒頭の<なぜだろう/あの頃しっくり感じてた/もうあの日の僕ではなく/今日の僕が居る>っていうフレーズが、もしかしたら今の私の心境に近いのかもしれない。自分の過去に対しては、何事も間違えじゃなかったって感じてるし、人は成長して変わっていかないといけないと思ってる。結婚して環境が変わった今の私は、ここで次のステージへ成長しなきゃいけない時期なのかなっていうのを感じてて、そんな気持ちを表現している曲です。たまにファンの方から、“今、すごく辛いんです”っていう手紙を頂くんですけど、辛いからこそ幸せなときがあるっていうことに気づいてもらえたらって思うんです。失敗も成功も全て自分自身の糧になるんですよね。焦っているときはなかなか答えが見つからないけど、ちょっと落ち着いて考えてみたら、自然と答えが見えてくれるはず。「恋しくて」を除くと、アルバム唯一のミドル〜スロウナンバーなので、この曲を聴きながら目を閉じて、自分の心を見つめてみてほしい…そんな一曲です。
06.「恋しくて」
スタッフとのガールズトークがきっかけで生まれた男女の切ない想いを描いたバラード。大好きな彼との突然の別れを経験した彼女。なかなか彼を忘れずにいたその子は、当時彼と一緒に住んでいた街の駅でいつか会えるんじゃないかと思って何日も待っていたんです。ある日、念願叶って大好きな彼をホームで見かけたんですけど、なぜか口から出た言葉は“ヨッ!”の一言。もっともっと伝えたい想いが溢れていたのに、どうしてその一言しか言えなかったんだろう…と。近くにいるときは見えなくて、遠く離れてから気づく想い、なんて切ないんだろう…でもそれと同時に彼女には幸せになってほしい、前を見て歩いてほしいという気持ちがわき上がってきて、この曲の歌詞が誕生したんです。かけがえのない人に出会えたことへの感謝の気持ちを綴った作品です。
07.「LALALALALA」
一度、耳にしただけでみんなで口ずさめるようなメロディだったので、ライブでもみんなと一緒に盛り上がって、歌える曲にしたいなって思ったんです。例えイヤなことがあっても、みんなで<♪ラララララ>って歌えば前向きになれる、それが、私とみんなとの合言葉になればいいなって。下を向いているばかりだと間違った選択をしちゃうから、そういう時こそ明るい笑顔をイメージして、楽しんで歩いていって欲しいなっていうメッセージを込めてますね。ロスのヴェニスビーチで撮影をしたMVでは、BEPやファーギーを撮っているファティマに撮影をお願いしました。現地のパフォーマーやスケーターのシーンをはじめ、ほとんどアドリブでやってるから、本当に皆が楽しんでるっていう絵になってて。私自身、すごく開放的で明るい気持ちになったし、撮影中もすごくHAPPYな気分でいっぱいだったんですよね。きっとMVを観てくれた人も笑顔になれる映像に仕上がったんじゃないかと思います。
08.「Let's show tonight」
アルバム制作の最終段階になって、どうしてももう1曲欲しいって思って急遽追加した、できたてほやほやの新曲です。波の音とカモメの鳴き声が聞こえるなか、新しい旅の出発を告げる汽笛が響き渡る。サウンドの面では、口笛と女性コーラス、生のドラムスティックがうつリズムと華やかなホーンがメインとなっているので、いい意味でダサかっこいい、このアルバムを最も象徴してる曲になったなって思いますね。“みんなで一緒に旅にでよう。いまからパーティーがはじまるよ”っていう歌詞も『Bon Voyage』の世界にピッタリなのでツアーを想像しながら聴いてもらえたら嬉しいですね。
10.「TOUCH DOWN」
『JAPONESQUE』に収録されていた「Boom Boom Boys」、「V.I.P feat. T-PAIN」を提供してくれた、ロス在住のドイツ人プロデューサー/ソングライターのトビー・ガッドに書いてもらい、2年くらい前から温めていた楽曲です。歌詞は耳障りを重視して書いたんですけど、目先のことではなく、もっともっと遠くのことを見ていこうって歌ってますね。英語のサビの部分は、本当は上ハモがメインなんだけど、私は低音が強いので、下ハモをメインに感じるくらいにあげてもらって。倖田來未の声質を生かした、クールな印象のミックスをしてもらいました。この楽曲もファティマに撮ってもらったんですが、白ホリのスタジオで私をクローズアップした映像のシンプルさが新鮮でした。彼女がプライベートで着ている私服も持ってきてくれて、ファッションのディレクションもしてくれたんです。全部で8体くらい着替えてるんですけど、例えば、バングルをヘッドアクセに使うのも彼女のアイデアだし、バンダナも彼女自身が巻いてくれた。「LALALALALA」と「TOUCH DOWN」はメイクさん以外、すべて現地のスタッフだったこともあり、みんなで一緒に作りあげた感の強い作品にですね。
11.「Crank The Bass feat.OVDS」
ドラムンベース寄りのクレイジーな曲を入れたいなって思って。しかも、「XXX」(シングル「Dreaming Now!」のカップリング)よりもローが強い、フロア志向で黒いグルーヴの曲にしたかったんですね。そこで、何度か来日公演を見ていた、台湾のミクスチャーバンド、OVDSに声をかけて。もともとすごく声がいいし、ノリもカッコいいなって思ってたんだけど、一緒にレコーディングスタジオに入ってみて、改めてセンスがすごく高いって感じて。ちょっとルーズなラップをやる人もいるけど、彼は音感もリズム感もものすごい正確で驚きました。好き嫌いが分かれる曲かもしれないけど、これからも自分がカッコいいなって思うアーティストとは有名無名を問わず、積極的にコラボしていきたいですね。若い世代の人たちにももっともっと前にでてほしいなって思います。
12.「LOL」
LOL=Laughing Out Loud。海外では“(笑)”と同じ意味で使われている言葉ですね。
これは、倖田來未の普遍的なテーマである、辛い時こそ笑い飛ばせ!!というのが表れている曲。おどけた軽快な笑い声が象徴的な楽曲です(笑)。ちなみにMVは、新しい監督さんにお願いしてて。新しいスパイスを入れたいなって思ったんですね。ずばり、笑わせることがテーマの曲なので、私がびっくり箱から出てきて歌ったり、いろんなジャンルのダンサーが仮面を付けて出てくる不思議な世界観の映像になってます。このMVでも悪天候の中撮影したシーンがあり、迫力満点な映像に仕上がったんじゃないかと思います。ライブでもどういうシーンで使われるか楽しみにしていてほしい楽曲ですね。
13.「Go to the top」
出産後、私自身を再び“アーティスト 倖田來未”のステージへ戻してくれたシングル。『JAPONESQUE』以来、短い間ではあるもののお休みをいただいて。その間、他アーティストの楽曲に触れて沢山の刺激を受けたり、プライベートな環境の変化のなかにいる自分を感じながら“これから、倖田來未はどうあるべきか?”を改めて考えたんですね。そこで、辿りついたのが“やっぱり倖田來未はカッコよくあるべきだ”という答え。妻となり、母となっても、守りに入ることなく攻め続けていきたい。そんな私の決意もまた伝わる曲にしたいなって。そんな想いもこの曲には込められているんです。今、あの頃の私のように心に迷いがある人が聴いたときに、周りがなんと言おうと、自分で決断したことに間違いはないっていうメッセージが伝わると嬉しいです。
14.「Dreaming Now!」
日本テレビ系“バレーボール・ワールドグランドチャンピオンズカップ2013”のテーマソング。楽曲制作中、実際にバレーボールの試合を見に行ったんですけど、試合前に選手の映像が音楽と一緒に流れて、その音楽に合わせるように会場の完成や手拍子が鳴り響く…その光景を会場で目の当りにしたときに、試合も始まっていないのに、感動して涙が出そうになってしまったんです。そこで、“今創っている曲は違うかもしれない”とハッと思って。普段はめったにしないんですが、そこから10曲くらい候補の曲をあげて、試行錯誤を重ねて完成した作品です。MVは悪天候の中の撮影でしたが、ある意味その風や雨のおかげで、かなり迫力ある映像になりました。体の全てを使って、戦い続ける強い意志、そして、前を向いて歩き続けていく気持ちを表現している激しいダンスシーンにも注目です。この楽曲を通して、スポーツをはじめ、世界に挑戦する全ての人と応援者であるオーディエンスに、夢を諦めない気持ち、そして、その夢を応援する気持ちの強さ、勇気とパワーを伝えることができたら嬉しいです。
15.「On Your Side」
久しぶりに他の方に書いて頂いた歌詞で歌わせて頂きました。私をイメージして書いてくれたんですけど、“倖田來未はこういう風に見られてるんだな”っていう新しい発見がありましたね。私は笑顔が好きで、ファンのみんなの笑顔から元気をもらってる。もしかしたら無理してる部分もあるかもしれないけど、そんなことを考えてたら前に進めない。強く居続けるために目を伏せてきた部分が書かれていて、客観的に自分自身を見つめ直した気分。メロディはちょっとレゲエっぽいんだけど、毎日努力し続けて少し疲れているような人の心にそっと寄り添えるような内容の歌詞なので、“どんなときでも私がそばにいるよ”という想いを込めて優しく歌ってます。
16.「U KNOW」
アルバムのなかではいちなんポップなハッピーソング。歌詞は、周りに何と言われようと、自分が正しいと思うなら芯はぶれずに、信じてやり続けるべきだっていうことを書いてて。たとえそれが型にはまったことではなくて、人から風変りに言われることがあっても、やり続けていくことで周りも認めてくれるんじゃないかって。私自身もデビュー当時はさんざん言われたものだけど、だんだんと認められるようになった。私がライブのMCで必ず言っている、“自分らしくいてほしい。人は誰もが生まれながらにしてオンリーワンのものを持っている”というメッセージを込めた曲です。
TEXT BY 永堀アツオ