──新曲「冷たい雨」は、ドラマ“ダーティ・ママ!”主題歌として書き下ろされたということですが、ドラマ主題歌を担当する際は、通常の楽曲作りとは何か異なる点はあるのでしょうか?
ドラマ主題歌の場合は、私一人で完結するものではないので、ドラマのプロデューサーさんからのリクエストも踏まえて制作していくんですけど、今回は、第一話の台本をいただいて、それを読みながら色々想像していきました。わかっているのはキャストだけで、まだ全く映像がない段階なので、ドラマ全体のトーンとか、スピード感は、自分で想像していくしかないんですけど、色々な情報を自分なりに租借して、曲に落とし込んでいくというのは、すごく面白い作業でもあります。
──楽曲の作り方としては、詞先、曲先いろいろありますが?
私はだいたい同時なんですよ。同時に一行ずつ歌詞もメロディーも書き進めていくタイプなんです。どこから書き始めるかは曲によるんですけど。
──「冷たい雨」の場合は、いちばん最初に出て来たフレーズというのは?
サビですね。♪打たれてぶたれて 冷たい雨に〜というほんとにサビのド頭のところから書き始めました。実は、この曲は、本当に雨が降っている日に書いたんですよ。ドラマ“ダーティ・ママ!”の主人公・高子は、女性でシングルマザーで刑事という役どころ。強気で何があってもへこたれない逞しい女性。そのキャラクター・イメージと雨が私の中でリンクしたんですよね。雨ニモマケズ 風ニモマケズ…じゃないんですけど、ずぶ濡れになりながらも負けない女性…そういう映像がパッと浮かんできて、これだ!ってひらめいたんですよね。
──それですぐに、♪打たれてぶたれて〜のフレーズが?
そうですね。サビを最初に書いて、AメロやBメロのストーリーを後から書いていきました。“女性にエールを送るような強い曲を”というリクエストもいただいていたので、それを意識しつつ、自分とドラマの主人公がリンクする部分を見つけながら書いていきました。実は、タイトルも曲調も全く異なる曲を何曲も書いたんですけど、私らしさもあって、ドラマの主人公のイメージにも重なって、ちょうど良い着地点を見出せたのがこの曲だったんです。
──今回は、トーレ・ヨハンソンさんのプロデュースですが、レコーディングはどんな風に?
プロデューサーもミュージシャンもスウェーデン人ですが、私はスウェーデンには行っていなくて、データのやりとりでレコーディングしていきました。歌は日本で録って、それを送って、向こうでミックスして貰いました。気心知れたプロデューサーなので、デモテープを送って、歌詞の内容やサウンド・アプローチのイメージを伝えて、キャッチボールしながら作っていったんですけど。
──女性にエールを送る曲でありながら、メロディーは元気いっぱいというよりは、ちょっとやるせない感じもあったりしますね。この雰囲気は“大人のガンバル”だなって。
ドラマの主人公と私自身が同世代なんですけど、社会でかなり揉まれてきて今があるというアラフォー世代の女性が、酸いも甘いも知った上で、ドライに自分の道を切り開いていく。そういうイメージがあったので、ただ元気で明るい曲では、しっくりいかない気がしたんですよね。
──サウンド・イメージとしては?
すごく泥臭い曲にしたかったんです。泥臭くて、且つ、マッシブなロックにしたかった。楽曲自体は、女性賛歌でもあるんですけど、サウンド面では、すごく男っぽい曲にしたくて。例えば、キーボードの音色1つでも、どちらかと言えば可愛らしい音、どちらかと言えば男らしい音というのがあると思うんですね。そういう意味での“女性らしい音”を極力排除して、リアル・ライフが感じられる音…ファンタジーじゃなくて、今を逞しく生きるパワーみたいなものが感じられる音にしたくて、何度も軌道修正しながら進めていきました。ギターの音1つにしても、“もっと歪ませてくれ”とお願いしたり、ドラムも打ち込みのクリーンな音色じゃなくて、人のグルーヴがある生ドラムにしたり。ヴォーカルも、腹から声を出して、拳を握り締めて歌っているような…そういう感じでした。結果、すっごくマッチョな曲に仕上がったと思います。
──歌詞の中には、BONNIE PINKさんご自身の今の心情も反映されているのかと思うのですが?
ドラマ主題歌としては、色んなアプローチができたと思うんですけど、どんな曲を書いても、ドラマに合っている合っていないというのは人によって感じ方は違うし、だったら、誰がどう受け取るかということよりも、私がどう感じたいか、どう生きていきたいかを書かないと、シンガーソングライターとして活動している意味がないと思ったんです。ドラマの世界を代弁しながらも、“私の今”というのもかなり歌詞の中には入っています。
──“私の今”と言うと?
昨年の震災以降、どんな曲を書けばいいんだろうって、本当に悩んだんですよね。何を書いても嘘臭くなっちゃう気がしたし、ファンタジックなものを受け入れられなくなった自分もいて。よりリアリティーのある、人間が汗水たらして作っていますという曲を作りたかったんです。なので、歌詞にしても、サウンドにしても、等身大と言うか、今の私にとってリアルなものが書けたかなと思っています。今の日本の時代性というのも表したいと思ったし。
──今の日本の時代性とは?
震災によって、日本はたくさんのものを失ったけれど、同時に、たくさんのことを学びもしたと思うんですね。あの震災を経験して、初めて思ったんです。自分は、生きているんじゃなくて、生かされているんだって。歌詞の中に“打たれてもぶたれても、まだこの血は熱い”というフレーズがあるんですけど、生かされた以上、必死で生きなきゃ、この命がもったいないし、色んな人に申し訳ない。そんな気持ちが湧いてきて、それも歌詞に反映されていると思います。
──そういう気持ちと、ドラマの世界観が一致した?
主人公の高子と、新米刑事の葵。片や検挙率ナンバー1で男勝りな敏腕刑事、片やまだまだ乙女心を失っていない新米刑事。二人は全く正反対のキャラクターなんですが、その二人の共通点として、“何かを獲得しようとして社会で戦っている女性”というのが見えてきて、そこが、震災以降の私の感覚とリンクしたんですよね。そんなに大それたことじゃなくても、毎日を大切にして、自分らしさを貫いて、やり残した事がないように毎日を精一杯生きる。そんなことを言いたかったんだと思います。