|
||||||||||||||||||||||||
いまさらではあるが、ここでもう一度、倖田來未の出発点を振り返ってみたいと思う。2000年11月にシングル「TAKE BACK」で、日本に先駆けて全米デビューし、全米ビルボードチャートで最高位18位を記録した。翌年の12月に逆輸入の本格派アーティストとして日本デビューしたが、続く第2弾シングル「Trust Your Love」も全米発売され、同チャートで最高位1位を獲得。総合チャートでも19位に入り、坂本九、YMO、オノ・ヨーコなどに続く7人目の快挙を果たした。あれから12年。節目となる10枚目のアルバムで彼女は妖艶な花魁に扮し、『ジャポネスク』というタイトルをつけた。なぜ、いま、このタイミングで、海外から見た日本を意識したテーマを掲げたのか。
倖田來未(以下、倖田):今年はベトナムやシンガポールでライブをやる機会があって。プライベートでもタイに行ってきたんですけど、ホテルに戻ってテレビをつけると、日本の音楽が全く流れていないっていう現状を目の当たりにして。それで、日本に帰ってきたら、アジア各国と同じように、K-POPがたくさん流れてる。もちろん、私もK-POPは大好きだし、リスペクトもしているんですけど、日本人としてもうちょっと頑張らなければいけないなって思ったんですよね。日本の音楽にも、洋楽負けないパワーがあるんだっていうことを示したかったんです。だからこそ、『ジャポネスク』というタイトルをつけて、海外でも通用する音楽を作ろうって思ったことが、アルバム製作の出発点になっていますね。
8月にベトナムのハノイで“日越友好音楽祭”に出演し、11月にはシンガポールのインドアスタジアムで開催されたアジア最大級の音楽祭“2011 Mnet Asian Music Award(MAMA)”に唯一の日本代表として出演した彼女。事前会見では“初心に戻った気持ちで精いっぱいパフォーマンスしたい”と語っていたが、彼女にとっての"初心"とはなんだろうか。その1つは、ライブに主軸をおき、生のパフォーマンスを通して、自身の音楽性を伝えるということだろう。デビュー当時の彼女は、テレビの露出を極端に抑え、地道なクラブサーキットを続けていた。数多くのステージを経験し、体内のR&B/ヒッポホップ濃度を高めた成果がのちのブレイクに繋がったのは周知の通り。今年も音楽番組以外のバラエティーなどには出ずに、キャリア史上最多となる全国ホールツアーを敢行し、現場でしか感じられないリアルな感覚を磨き上げてきた。
そして、リスクを恐れずに前進し続ける姿勢と、ほかのアーティストにはできないエロティシズムの追求、そんな彼女の生き方を伝えることができる最適の場所としての映像作品の徹底である。本作では、2008年1月にリリースした6枚目のアルバム『Kingdom』以来となる全17曲のMVを制作している。
倖田:10枚目のアルバムということもあって、改めて、原点回帰したいなって思ったんですよね。30歳になっても、同性が憧れるようなセクシーでカッコいい女性像を追い求めたいですし、攻める気持ちは絶対に、忘れたくない。今作は、ここ4年くらいの自分が恥ずかしいって思うくらい(笑)、大胆に、強気の姿勢で制作に向かえたし、アルバム全体を通しても、強い自分になれる曲が多いと思うんですね。だから、自分に自信をなくしたときや、元気になりたいとき、強くてカッコいい女性になりたいっていう気分の時に聴いていただけたら、よし!って、喝をいれるというか、背中を押してあげられる作品になれたらいいなって思いますね。
また、サウンド面でも、『Kingdom』以降、常に提示してきたJ-POPマナーのメロディラインとワールドスナンタードなサウンドのハイブリッドな交合が最高到達点でなされた内容となっている。08年当時、“ヒップホップ、R&B、ハウス、ロック、エレクトロ……。アルバムで幅広い楽曲に挑戦することで、J-POPが好きなファンの方にも、新しいジャンルを好きになるきっかけになって貰えたら嬉しい”と語っていた彼女にとっては、長年研究してきた、洋楽志向と歌謡曲展開の絶妙な配合バランスをついに発見したという充実感もあるだろう。
倖田:日本には歌謡曲という文化がある。そのオリジナリティーを大事にするために、耳に残るキャッチーなメロディラインは残しつつも、使う楽器の音色とか、サウンド面では最先端のものを取り入れたいとずっと思っていて。私自身、歌謡曲で育ってきたから、カラオケで歌えるメロディと歌詞というのは大切だと思っているんですけど、今回はこれまで以上に、エッジの効いたトラックを作ってて。結果的に、かなりのスケール感になったと思っているので、よりステップアップした倖田來未を堪能して頂けたら嬉しいなと思いますね。
デビュー以来、ファーギーをはじめ、B・ハワードやファー・イースト・ムーブメント、東方神起やSHOWなど、海外のアーティストと積極的にコラボしてきた彼女。今作では、元B2Kのオマリオン(ヴォーカル、ダンス)とT-ペイン(ラップ)という今のアメリカのR&B/ヒップホップシーンの最前線のアーティストを起用することで、逆に似て非なる自身のオリジナリティ(と日本のポップミュージック)を際立たせることに成功している。耳だけではなく、目でも楽しませるパフォーマンスで日本の音楽シーンを席巻した彼女が、まずは、アジア各国に新たな風を吹き込むことに期待している。
取材・文/永堀アツオ