|
||||||||||||
2010年、突如としてシーンに登場、大旋風を巻き起こした“世界の終わり”が、バンド名を“SEKAI NO OWARI”と改め、トリプルリードシングル「INORI」で8月17日にメジャー・デビューを果たした。
深瀬 慧(Vo/Gt)、中島真一(G)、藤崎彩織(Key)、LOVE(DJ)の4人組。ベースとドラムは打ち込み、ピエロのお面がトレードマークのDJを擁するユニークな構成。
幼い少年のような無垢なヴォーカル。キャッチーなメロディー。ギターとピアノを中心としたポップなサウンド。独自の哲学を貫く鋭く純真な歌詞。この4人でしか生み出す事のできない、唯一無二の歌世界を築いている。
結成は2007年。工場の地下室をメンバー自身で改装した手造りのライヴハウス“club EARTH”(http://clubearth.ifdef.jp/index.html)を活動拠点とすると共に、そこで共同生活を送りながら楽曲作りに取り組んできた。
2010年2月、シングル「幻の命」でインディーズ・デビュー。4月には早くも1stアルバム『EARTH』をリリース。徐々に動員を増やし、夏フェスでは各地で圧倒的な存在感を見せつけ、入場規制となるステージも。2ndシングル「天使と悪魔/ファンタジー」(11月)リリース後、12月には、デビューから僅か8ヶ月という異例のスピードで初のホール公演(C.C Lemon Hall)を敢行。瞬く間にJ-POPシーンを席巻。激動の1年を経て、SEKAI NO OWARIは2010年を象徴するバンドのひとつとなった。が、本人たちは至って冷静。メジャー進出も“来たるべき時”の到来であり、より良い制作環境へのステップアップとして受け止めているようだ。
深瀬:(2010年は)激動の1年というよりは、自分たちが“club EARTH”を造ってから思い描いていたことがリアルになった1年でした。
藤崎:作品を制作する基盤がトイズファクトリーになったことで自由度も増したし、自分たちがやりたいことを実現できる環境も増えて、より密度の高い作品を作れるようになったんです。4人の根本的な意識は何も変わっていなくて。『EARTH』をリリースしたときに“自分たちはこういうものですと伝える自己紹介盤です”と言っていたんですけど、いまもその延長線上でリスナーとコミュニケーションを取っている感覚があって。はじめて会ったときは深刻で暗い人だと思われていたけど、2回目にお酒を呑んだときはすごくしゃべるやつなんだって知ってもらえて、今度また呑みに行こうよって約束をするような(笑)。『EARTH』から「天使と悪魔/ファンタジー」、今回の「INORI」と、ずっと同じ歩みのなかで生まれているものなんです。
中島:メジャーに行くと、締め付けが厳しくなるというイメージをもっている人も多いと思いますけど、僕らは逆ですね(笑)。あくまで信頼できるスタッフとやりたいことをやれる環境を選んだので。自分たちの信じたところにどんどん向かっていけているという実感があります。
LOVE:「INORI」のレコーディングからバンドを代表して機材を選ぶようになって、レコーディングがめちゃくちゃ楽しかったんです。楽しいことがどんどん増えていて、さらに新しいことに挑戦できる環境にいられるのは幸せだなと思います。
メジャー第1弾トリプルリードシングル「INORI」の3曲は、深瀬、藤崎、中島という3人のソングライター、コンポーザーが、それぞれ異なる組み合わせで作詞・作曲したもの。アレンジを手掛けるのは主に中島だ。
「花鳥風月」は、作詞:藤崎彩織、作曲:深瀬 慧。メロディー自体は2年前には完成しており、藤崎はこの曲をよくピアノで独奏していたと言う。その彼女が、はじめて作詞を手掛けたナンバーでもある。メロディーもアレンジも“和”の趣き。草木や花、月や星を慈しみながら、そこに愛する人への想いを重ねた抒情的な歌詞。ギターアンサンブルが何とも美しい風雅なナンバー。「花鳥風月」というタイトルがピッタリだ。
藤崎:ピアノで弾いて美しく鳴る曲なんですよね。ことあるごとに弾いていましたね。歌詞はそんなメロディに溶けるような言葉を選びたいなと思って。私のなかでは理論と感情に基づいたすごく壮大なテーマがあるんですけど、それはすごく個人的なものでもあるし、自由に受け取ってもらいたいです。
中島:メロディ自体に和風っぽい雰囲気が強くあって、それが魅力でもあるんですけど、アレンジはそこに寄り過ぎるのではなく、いかにSEKAI NO OWARIらしさを出せるかを考えて組み立てていきました。
深瀬:原曲は自然に対する畏怖の念みたいなものを感じさせる強さがあったんですけど、中じん(中島)が持って来てくれたアレンジは、もっと日常的で、ラジオのカーステから流れてくるような感触のあるものになっていて。それがすごくいいなと思ったんです。どこかで僕らはそういう音楽は作れないんじゃないかと思っていたところもあったので。情景や思い出に溶け込む音楽を前にしたら、どんなに哲学を振りかざしても勝てない瞬間があるんですよね。そういう曲になったと思うし、僕らの音楽の新しい切り口だと思います。
「不死鳥」は、作詞:深瀬 慧、作曲:中島真一。アンドロイドに恋をしてしまった“僕”を主人公に、2人の会話を通して、始まりと終わり、生と死、そしてその先にある永遠を見つめる、ドラマチックなラヴソング。アルバム『EARTH』に収録された「死の魔法」へのアンサー・ソングのようでもある。
深瀬:もともとラヴソングが大好きで、ラヴソングに憧れを持っているのに、いざ自分が書こうとすると悩みに悩んで、書けなくて。そこからどうしようかと考えたときに会話の繋がりで物語を表現しようってなって。自分のなかで恋愛は何かと考えたときに“手に入れたいのに手に入らないもの”だなと思ったんです。で、俺にとってそれは何かなと思ったら、やっぱり永遠だった。いずれ死んでしまう自分の永遠に対する憧れをラヴソングに変換してこの歌詞を書きました。僕はもともと温度のある言葉が嫌いで。でも、ラヴソングって必然的に人間味やあたたかみのある言葉を選ぶことになるし、この曲でも「Never Ending World」でも、いままで絶対に書かなかった〈手を繋ぐ〉という言葉を書いていて。最初は抵抗もあったんですけど、いまではよかったと思っています。
「Never Ending World』は、作詞:深瀬 慧、作曲:藤崎彩織。ピアノと弦の激しく美しいアンサンブルが印象的な壮大なバラード。3曲の中で、唯一この曲だけが、東日本大震災の後に作られた曲だと言う。♪「人」と描いて他人という意味の この国はヒトを恐れて生きてきた〜という歌い出しの1行からドキリとさせられる。「INORI」と名付けられた今作を象徴する1曲であり、SEKAI NO OWARIというバンドのヒューマニズムを表明する1曲であるとも言えるだろう。
藤崎:震災を受けて、自分のなかに沸き起こった衝動をこの曲に投影しました。もともとこの曲は年始から何パターンも作っていたんですけど、全然上手くいかなくて。でも、震災の翌日にピアノに向かったヴァージョンにはじめて手応えを感じたんです。3月11日以降に多くの人が感じたこと、頭に描いていたことを、この音だったら何年後でも思い出せるという確信がありました。
深瀬:この曲はリスナーにメッセージを伝えたいというよりは、自分たちの決意表明、宣誓のようなものですね。ただ、この曲から何かが伝わるのであればいくらでも受け止める覚悟もあって。SEKAI NO OWARIというバンド名も“世界が終われ”みたいなニュアンスでつけたと思っている人が想像以上に多くて。確かにそういうことに対する解答にもなっていると思います。僕らの新しいスタートであり、今後のフラッグになるような曲だと思います。
それぞれ、異なるメンバーの組み合わせで作られ、別個のアイデンティティーを持って存在している3曲が1つの作品として一体化。全体として、SEKAI NO OWARIの世界観を提示する作品となった。CDジャケットの仕掛にも、彼らのメッセージが感じられる。
深瀬:僕らには夢というものがないんですよね。夢って誰かのようになりたいとか、あの場所に行きたいとか比較対象や目標設定があってこそのものだと思うんですけど、そもそも僕らにはそれがないので。ただ、自分たちにはどういうルーツがあって、どんな道のりを辿ってきたからいまがある、ということは常に確認しておきたいとメンバー全員が思っています。
「INORI」からスタートする、SEKAI NO OWARIの第2章。11月22日には、初の日本武道館公演も控えている。