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──今年でデビュー10周年を迎えられる柴田さん。この10年間を振り返ってみて、柴田淳のスタイルというものを、ご自身ではどんな風に捉えていらっしゃいますか?
人が書かない事を書くという所でしょうか。最近は、本当に恋愛の歌が多いでしょう。あなたが好きで好きで〜という歌がとっても多い。私も、恋愛をテーマにした歌は多いんですけど、ただただ会いたいとか、好きで好きでたまらないとか、そういう正面から見た恋愛の歌ではなくて、その裏側にあるものを書いていきたいなといつも思っているんです。今回のアルバムで言えば、「願い」という曲は、うちの母なんか絶句してましたけど、そもそも歌にする内容なのかって。私も今年で35歳になるんですけど、このままずっと一人なのかなって、そういう不安を抱き始める時期なんだろうと思うんですよね。結婚が人生の全てとは思わないけど、結婚したいという気持ちはもちろんあるし、子供を産みたいとも思う。こういう話をすると、同世代の女性はみんな飛びついてくるんですけど、だからって、普通は歌の題材にするような事ではないですよね。だから、私の歌は決してポピュラーではないし、そこで歌われる言葉は、耳ざわりの良いものにはならない。綺麗な歌にはならないんですよね。
──それが、柴田淳のスタイルだと?
そうですね。他のミュージシャンの方々が題材にしないような所を書きたくなっちゃう。自分自身の性格もそうなんですけど、ちょっとねじれちゃったようなところを書くのが、私の個性なのかなと思っています。
──10年というのは、長かったですか?それともあっと言う間?
今回で8作目のアルバムになるんですけど、10年というのは、8つの作品を作った年月であって、立ち止まらずにやってきた日々の流れなんですよね。最初の頃は、大人の中に子供が一人混ざっているという感じで、その中でセルフプロデュースでやらなくてはいけなくて、辛い事も色々ありましたけど、だんだん仕事の仕組みがわかってきて、自分自身も成長して、ようやく地に足がついてきたという感じです。
──節目となる10周年の年にリリースされるアルバムですが、『僕たちの未来』というタイトルはどんな所から?
この10年間、常にその時をリアルに切り取るというのが私の基本であり、譲れない所だったんですけど、じゃあ、今を切り取るとしたら何だろうと考えてみたら、今というのは、デビュー当時の私とファンから見た未来なんだなって。「ぼくの味方」でスタートとして、その10年後という意味での『僕たちの未来』。男女の恋愛ソングを考えてみると、その後、その2人はどうなっていくのかという暗示としての『僕たちの未来』。それから、私の歌は、ポジティブなものが少ないと思ってきたんですけど、でも、辛いとか悲しいとか苦しいと感じるのも、未来を見ているからなんだなと思うようにもなったんです。この先どうなるんだろうと思うから不安になる。未来を見ているからこそ、色んな想いが生まれる。だとしたら、私の歌って実は全部、前向きに未来を見ているんだなって。そういう意味も含めて『僕たちの未来』というタイトルにしました。
──今回のアルバムは、これまでの作品とは大きく異なり、昭和40年代の歌謡曲の雰囲気に通じるものを感じたのですが?
正にその通りだと思います。今回は、思いっきり歌謡曲チックです。実は、私自身が大好きなんですよ、歌謡曲。母がとっても歌が好きで、いつも台所で昔の歌謡曲を歌っていて、すっかり覚えちゃったんですよね。原曲は一度も聴いた事がないのに、しっかり歌えちゃうナツメロって、すっごくたくさんあるんです。だから、歌謡曲にものすごく影響を受けているし、歌謡曲路線の曲は元々得意だったんです。でも、デビュー時には、今の時代に合っていないかなとか、やっぱり古臭いかなとか、そういう迷いもあって、一番の得意分野であった歌謡曲路線を敢えて選ばず、遠回りして難しい所からやってきたんです。
──それが、今回敢えて、歌謡曲路線となったのは?
私の曲は、若い世代の方から、おじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い年齢層の方々が聴いて下さっていて、これまでは、そういう色々な世代を意識しながら、楽曲作りをしてきたんですけど、今回は、そういう余裕が全くなくて。創作期間中に、東日本大震災があり、私生活では自分の人生の半分近くを共に過ごしてきた愛犬が死んでしまい、スタッフも変わったりと、目まぐるしく環境が変化したんですね。そういう中で、自分の核に入っていくというのは、ものすごく難しくて。それで、10周年という節目の年でもあるし、今回は、好きな事をやってもいいんじゃないかなって。いつもと違う私もいいんじゃないかと思ったんです。
──アレンジも思いっきり歌謡曲チックですよね。昭和歌謡が持っていたゴージャズな雰囲気で・・・。
今回は、アレンジャーさんも歌謡曲が大好きな人ばっかりで、だから、ほんとにどっぷり浸かっているんですよね。例えば、今の流行を意識したアレンジも可能だったとは思うんですけど、私自身が素直にドーンと歌謡曲路線で行ってしまったので、中途半端にやるよりは、もう“歌謡曲です!”って言い切っちゃう方がいいかなって。
──周囲の反応はいかがですか?
私よりも一回り以上下の世代は、歌謡曲を全く知らずに育っているでしょう。だから、そういう世代にどう届くのか、すっごく心配だったんですけど、20代前半の女の子が一番どっぷりの歌謡曲路線の「マナー」が一番好きだと言ってくれて、すっごくうれしかったし、安心しました。
──例え何十年前の歌でも、聴いた事のない人にとっては新曲ですものね?
そうなんですよね。だから、若い世代が、今回のような歌謡曲路線を何の先入観もなく聴いて、新しい音楽として受け入れてくれたというのは面白かったですね。逆に、歌謡曲をよく知っている、年長の皆さんは、懐かしく聴いてくれるんじゃないかなと思います。一番気になるのは、30〜40代の私と同年代の人ですね。歌謡曲というのが中途半端に古臭く感じる世代でもあるでしょう。だから、どんな反応が返ってくるのか不安でもあり、楽しみでもあります。
──楽曲作りは、どんな風に?決まったパターンがありますか?
必ず曲が先です。
──メロディーというのは、日常生活の中で自然と生まれてくるものですか?
私の場合は、メロディーが降りてくるとか、そういうのは全くないです(笑)。アルバムの制作期間が決まって、締め切りが与えられてから初めて動き出すタイプです。
──創作期間中は、どんな感じですか?
普段とは全く違う人格になっています。ものすごく過敏になっていて、些細な事でも癪にさわるし、創作期間中は、家族にはものすごく迷惑をかけていると思います。よく作家さんや漫画家さんがホテルに籠ったりするでしょう。何日もお風呂に入らないとか。私も、それに近いですね。お風呂も入ってしまうと、リセットされちゃうみたいな恐怖心もあったりして。本当に創作期間中は壮絶です。だから、例えば将来結婚したとしても、創作期間だけはホテルに籠るとか、1ヶ月だけは別れてくださいって言いますね(笑)。それくらい、非日常なんです。お料理やお掃除をしている時に出てくるとか、そんな事は絶対にないんです(笑)。
──作曲は、ピアノで?
ピアノの前でテープを回しっぱなしにしておいて弾いていきます。自分の記憶の中にあるメロディーというのは、後から弾き直す事ができるんですけど、無意識にひとりでにメロディーが出てくる時は自分の指が動いているのに、自分自身でも次にどこに行くかわからない。たぶん普段とは全く違う脳を使ってるんだと思うんですけど、できた瞬間にもう覚えていない。テープを巻き戻して初めて聴くんです。そういう時は、本当に良い曲ができます。
──ピアノ以外で作曲する事は?
最近は、お風呂でシャンプーしている時に、適当にハミングしているとメロディーが出てくる事はあります。鼻歌と言うか、アカペラで作った方が断然メロディアスになるんですよね。ピアノだと、やっぱり手癖もあるし、コードを基にしてメロディーを作るので、メロディーが弱くなっちゃうんですけど、伴奏ナシのアカペラで作ると、メロディーが全てを持っていくから、ものすごくキャッチーなものが出てくるんです。例えば、童謡や昔の歌謡曲って、伴奏なしでも歌えるでしょう。それって、メロディーがすごく強いっていう事なんですよね。
──今回のアルバムでは、そういう作り方をした曲はあるのですか?
「マナー」はお風呂で作りました。「風」はお布団の中でした(笑)。