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──6月から始まった全国ツアーでも、既に「おひさま〜大切なあなたへ」を歌われているそうですが、楽曲制作は、いつ頃だったのでしょうか?
ドラマ“おひさま”が始まってからです。4月くらいだったでしょうか。
──では、インストゥルメンタルのテーマ曲を既にお聴きになっていた?
“おひさま”は最初から観ていて、大好きなドラマなんです。メインテーマもずっと聴いていましたから、とても自然に入っていけました。
──『My Classics!』シリーズでも、元々あった曲に歌詞をつけて歌われていたわけですが、それとは全く違うものですか?
作業的には大きく違いますね。『My Classics!』シリーズは、自分で選曲もしたし、歌詞も書いていましたけど、今回は、渡辺俊幸さんが書かれたオリジナルのメロディーがあって、そこに、脚本家の岡田惠和さんが詞をつけてくださって、私が歌う。これまでに比べて、こんなに楽をしちゃっていいのかしらって、ちょっとサボッているような感覚にもなりました(笑)。クラシックから離れて、オリジナル曲を歌うという事自体、とっても久しぶりで、何とも新鮮な感覚でした。
──『My Classics』シリーズを通じて、ずっとご自身で歌詞を書かれてきたわけですが、他の方が書かれた詞を歌う場合、やはり感覚の違いがありますか?
歌った瞬間に、言葉が体に染み込んでいくのがわかったんですよね。自分で歌詞を書く時は、空中に浮いている言葉を掴み取るような感覚なんですけど、いただいた歌詞を歌う時は、言葉を体に染み込ませていくという感じなんです。それがとても心地よくて。岡田さんの言葉は、優しくて、綺麗で、日本語の美しさ、温かさ、奥ゆかしさというものを改めて実感しました。本当に素晴らしい歌詞だと思います。
──ドラマ“おひさま”の世界観とも重なりますね?
“おひさま”は、陽子という女性の一生を描いているドラマですが、この歌を陽子に置き換えてみると、出だしの♪ひかりがさし 風が泳ぎ〜という部分は、とっても少女性があって、陽子が女学生だった頃、あるいはまだまだ子供だった頃のイメージなんですよね。それが、歌の中で、どんどん年を重ねて成長して、最後の方では、陽子がお母さんになっている。歌っていて、そんな風に感じたんです。だから私も、今の自分と、これから向かっていく未来とを見ながら、自分の人生を歌ってみようという気持ちになりました。
──平原さんご自身も“おひさま”の大ファンだとお聞きしていますが?
ドラマの中で、お母さんが陽子に“笑顔を忘れないで、辛い時ほど笑うのよ”と言っているんですけど、まずはこの言葉を目標にしたいです。それから、お母さんが言った“おひさまは自分の力だけで輝いているでしょ。女性は、これからもっともっと輝いていかなければいけない”というセリフも、いつも頭の中にあるんですよね。あの時代に女性が自分の意志を持って生きていくというのはすごく大変な事だったと思うんです。今は、女性が自由に生きられる時代になりましたけど、だからこそ、常に自分は何がしたいのかを考え、これは好き、これはイヤだという、自分の信念を強く持っていないと、流されてしまうとも思うんですよね。でも、頑なに信念を押し通すのではなくて、しなやかさも忘れてはいけない。“おひさま”の陽子を見ていると、女性の役目というのをすごく考えさせられます。お父さんやお母さんを尊敬して、お兄ちゃん達の事も尊敬している。人の話をよく聞いて、その人の考えを受け入れる。家族を支えて、笑顔で受け止める。その懐の深さ。何かあった時に包んであげる事。それが女性の役目のような気がして。陽子の生き方に、学ぶべき点は多いなと思います。
──とても“母性”を感じさせる詞でもありますね。男性がよくここまで母性を表現されたなとも思いますが?
そうですね。私も最初は驚きました。でも、母性というのは、誰の心の中にもあるものなんだと思うんです。例えば、お父さんが子供を抱きしめたりする時って、お父さんの中の母性が働いている気がするし。小さな子供にもあるような気がするんですよね。飼っている小犬を抱きしめる時とか、お姉ちゃんが妹の手を引く時とか。誰もがお母さんから生まれたわけで、自分が今生きている証拠というのは、辿って行けば必ずお母さんに帰りつく。岡田さんは、そういう事をおっしゃりたかったのかなと思いました。きっと、大切な人を守りたいという気持ちが、母性なんじゃないかと思います。
──太陽の眩しさ、暖かさ、風の心地よさ・・・何でもない事がとても大きな事だったと気づく。そういう歌詞でもありますね?
本当にそうですね。当たり前の事だと思っていた普通の生活が、実は当たり前の事ではなかったんだと、この震災で初めて気づいたし。電気もガスもないという状況では、本当におひさまの光が頼りだったと思います。歌詞の中には、♪この命を 投げ出すのに 迷いなんてないわ〜という一節もあるのですが、とても重い一行だと思います。歌いながら、被災地で頑張ってる人方々の顔も浮かんできました。“おひさま”は、主人公の陽子をはじめ、みんなで頑張って戦中を生き抜き、戦後、復興に向かって力を合わせていく。今の日本の状況にも重なると思うんですよね。出演者、スタッフのみなさんも、被災地を元気にしたい、元気になって貰いたいと思って作ってらっしゃるんじゃないかと私は感じているんです。実際に、東北地区で視聴率が高いそうなんですが、みんなが楽しみに観ているドラマだから、私は、この歌をきちんとみんなに届けたいと思います。
──平原さんご自身が、特に気に入っているフレーズはありますか?
♪笑うだけで 涙が出たわ〜という一節が大好きなんです。私がいつも目標としている歌の感覚なんですよね。悲しいから泣くんじゃなくて、幸せを感じながら泣く。悲しみすらも受け入れた泣き笑い。
──ご自分が、笑って、泣いてという感覚ですか?
そうですね。例えば、懐かしい友達と会って、昔話に笑いころげながら、なぜか涙が出てくる。そんな感覚ですね。でも、色々な受け取り方ができるフレーズだと思います。あなたが笑うだけでうれしい…という解釈もできますよね。
──そうですね。例えば、赤ちゃんが無事生まれて、ただ笑っている顔を見ているだけで泣けてくる…そんな母の気持ちだったりとか?
ほんとにそうですね。そういう解釈もできますよね。
──“が”と“は”の使い分けが印象的ですね。♪あなたが忘れていても 私が忘れはしない〜とか、♪どこかで笑ってて それだけでいいのよ それだけがいいのよ〜とか。
この“が”と“は”については、スタッフとも話し合ったんですよ。“どこかで笑ってて それだけがいいのよ”って、どういう事なんだろうって。あなたにはずっと笑っていてほしい。ずっと幸せでいてほしい。それだけが私の願いなのという事なのかしらと思ったり。でも、私は最初、片想いの歌にも聴こえたんですね。好きな人がいるんだけど、決して一緒になれない。だけど、いつも笑っていてほしい。それを見ているだけでいい。“それだけがいい”というのは、そんな距離感がいいのよって、言ってるのかなって。きっと、聴く人それぞれが、その人にとっての“大切なあなた”を想いながら聴く曲なんでしょうね。
──たった一文字の違いで、これだけ色んな事を想像させるんですよね?
ほんとにスゴイですよね。日本語って怖い!(笑)でも、だからこそ、日本語って素晴らしいと思いますね。