|
||||||||||||
──リスナーのみなさんからのリクエストはいかがでしたか?
1万通以上のリクエストをいただきました。みなさんがどんな想いでその曲を聴かれていたのかコメントも読ませていただいて、楽曲を聴き、その曲や作曲家について勉強したりしながら選曲していきました。
──選曲はどんな風に?
こうした選曲の時、最初の基準となるのは“泣ける”なんですよね。涙というのは、自分の本音と言うか、いちばん正直なものだと思うんです。悲しい涙もあれば、泣き笑いもあるし、幸せな涙もある。だから、暗い曲でも、明るい曲でも、自分の心が動かされたり、涙が出たりする、そういう直感というか自分の素直な感情を頼りに選んでいきます。
──歌詞の方は、今回は恋愛をテーマとした楽曲がとても多いですが?
ほんとに今回は、愛の歌が多くて、今年のツアー・タイトルも“LOVE STORY”にしたくらいなんですけど、最初からアルバム・テーマとして決めていたわけではなくて、歌詞を書いていくうちに、愛の歌が多くなっていたという感じなんです。
──『my Classics!』は太陽と月をテーマとしながらも“月”の印象が強かった、『my Classics2』は新大陸へ旅立つイメージ…と以前におっしゃっていましたが、そういう流れで捉えると、何かがあり新大陸への渡航を決意した女性が、新天地で生き始め、ようやく恋をする余裕ができた、という大きなストーリーも感じますが?
まさにそうです。1年前は、自分との対話と言うか、自分を見つめる楽曲が多かったと思うんですね。だけど、新世界に辿り着いて、そこで見たものと言うのは、やっぱり愛だった。そういう答えに行きついて、愛の歌が多くなったんじゃないかなと思います。
──シリーズ3作目となり、ご自身の詞に関しては、変化を感じますか?
歌詞に対する意識は大きく変わりました。この『my Classics!』シリーズを始めるまでは、続けて何編も歌詞を書く事はなかったんですよね。だから、1作目、2作目と歌詞を生み出すことの大変さをたくさん味わって、すごく大変だったんですけど、それがだんだんと、楽しさに変わっていって。ある時、もし歌詞を書く事を禁じられたらどうだろうと想像してみたら、それはとても苦しい事だなって。実は私は歌詞を書きたいんだという事に気づいたんです。
──そうした変化は、クラシックをカヴァーした事で生じたものでしょうか?
クラシックと向き合ったことで、色んな体験ができて、色んな想像もできて、私自身の人生からでは全く考えつかないような発想も教えていただきました。今まで苦手だった愛の歌が、今回こんなにたくさん書けたのも、クラシックの楽曲があったからです。
──それは、音から教えて貰うという事ですか?
もちろん音そのものもなんですけど、一番大きいのは、作曲家の生き方です。恋に悩んだ方もいますし、自分の生き方に迷った方もいて、テーマはそれぞれなんですけど、自分自身の悩みや苦しみを曲にしていらっしゃる。私は迷ったり悩んだりした時に、それを自分で消そう消そうとしていたんですけど、そういう悩みも1つのテーマとして歌詞にしてみようとか、そんな風に転換できるようになりました。内に押し込める必要はなかったんだ。外に出してしまって良かったんだと、気づかせていただきました。
──先行シングルとしてもリリースされた「別れの曲」。ショパンの「別れの曲」をそのままタイトルとしても使われていますが?
この曲は、日本では「別れの曲」として知られていますが、元々のショパンさんの曲にはタイトルはついていないんです。それを知って、“別れ”をテーマに歌詞を書く事を一瞬ためらったのですが、ショパンさんがつけたかもしれないと言われている副題が「悲しみ」だったと聞いて、そこにも別れを感じたので、そのままのテーマで書く事にしました。今回のリクエストでも一番人気だったのがこの曲で、みなさんが聴きたいのも“別れ”というテーマなのではと思いましたし。実は、一番最初の『my Classics!』の時に募ったリクエストでも、「別れの曲」はとても人気が高かったんですよ。
──その時にカヴァーしなかったのはなぜ?
私自身もすごく好きで、良く知っているメロディーだからこそ、少し戸惑いがありました。好きなものほど踏み込めないと言うか。
──クラシックのカヴァーをこれだけ経験して来ても、まだ躊躇するものがあった?
ありました。それくらい大きい曲です。でも、今回取り組んで本当に良かったと思っています。私自身が大切な人を亡くし、悲しみの中にいた時期でもあったので、その想いを素直に書こうと思って臨んだのですが、導かれているような気持ちにもなりました。
──歌詞の文字数は決して多くないのに、とても長いストーリーを感じる詞ですね。
夏の終わりから、秋冬を経て、また花が咲く春まで、四季を感じて書きました。きっとみなさん、それぞれの想いがあって聴いていらっしゃる曲だと思います。別れはすごく悲しいし、遠くに行ってしまったように感じるけれど、実はいちばん心の近くにいてくれるような気もするし。「別れの曲」からは強さをいただいた気がして、この曲にはとっても感謝しています。
──リクエスト曲の中で、特に印象に残っている曲などありますか?
ラフマニノフさんの「パガニーニの主題による狂詩曲」も人気が高ったです。今回、「ラヴ・ラプソディー」としてカヴァーしましたが。
──この曲からは、どんな想いを感じ取られたのでしょう?
ラフマニノフさんはロシアの作曲家ですけど、祖国を追われアメリカに亡命。その後、思うように曲が書けず何十年も異国の地で悩み苦しむんです。二度と帰れない事はわかっていながら、祖国への想いを捨てる事ができず、故郷に似ている土地を探して、そこに別荘を建て、白樺の木まで植えて故郷と同じ景色にして。そこで書かれたのが「パガニーニの主題による狂詩曲」なんです。そういう話を聞くと、本当に切ないし、時代に翻弄されながら、それでも曲を書き続けていたんだなと思うと、小さな事で悩んでられないなと思いました。
──新たな発見となった曲もありますか?
エルガーさんの「チェロ協奏曲」は、今回リクエストをいただいて初めて知ったメロディーでした。こんなにイイ曲があったんだと思って。
──「私という名の孤独」としてカヴァーされていますが、歌詞のテーマは、どんな所から?
この曲は、エルガーさんが病気と闘っていた晩年の作品で、家族で森のコテージに移り住んで、森の中で書かれた曲らしいんです。エルガーさんと言えば、「威風堂々」を始め、堂々として栄光に満ちたメロディーの印象が強いんですけど、この作品は少し暗くて全く雰囲気が異なるんです。奥様も“今までの主人のメロディーと全く違う。すごく繊細で捉えどころがない。まるで、ウッド・マジックだ”とおっしゃったそうで、エルガーさん自身も“森が自分のメロディーを歌っているのか、それとも私が森のメロディーを歌っているのか”という言葉を残したくらい、森と共鳴しながら書かれているんです。彼は病気と戦いながら、森から何を感じたのだろうって、そこから考え始めて。また、この曲を有名にしたチェロ奏者のジャクリーヌ・デュプレイさんも、病気が発症し、闘病しながらこの曲を弾いていたというお話も聞いて、過酷な運命に立ち向かっていく強さというテーマが見えてきました。歌詞にも書いたんですけど、木は、雨に打たれても、風に吹かれても、雷が落ちても、黙ってずっとそこに立ち続けて、また新しい芽を出していく。なんて強いんだろうと思って。私もそういう人間になれたらいいのにと思ったし、きっと、エルガーさんもそんな思いでこの曲を書いたのかなって。
──馴染み深いようで意外だったのは、ベートーヴェンの「交響曲第9番」。第9と言うと、真っ先に思い浮かぶのは第4楽章「歓喜の歌」だと思うのですが、今回、第3楽章を取り上げたのは何かキッカケが?
これは、昨年の“サントリー 1万人の第九”から生まれた作品なんです。指揮者の佐渡裕さんから、是非、この第3楽章をカヴァーして“1万人の第九”のステージで歌ったほしいと言う大きな宿題をいただきまして。究極の愛のメロディーだから、究極のラヴソングを書いてくださいと仰せつかり「LOVE STORY」という歌詞を書きました。
──実にドラマチックなラヴソングとなりましたね?
メロディー自体が本当にドラマチックなんです。私自身、第4楽章の「歓喜の歌」は「Joyful Joyful」としてカヴァーもしていますし、とても馴染み深いものだったのですが、第3楽章ときちんと向き合ったのは今回が初めてだったんです。
──何か発見が?
「交響曲第9番」は、第1楽章では5度の音を多用していて、第2楽章はオクターブ(8度)、第3楽章は2度の音、最後の第4楽章が3度の音という風に、だいたい音の幅が決められて作られているんですけど、“愛のメロディー”と呼ばれている第3楽章が、2度の音で作られていると言うのは、2度というのは隣り同士の音だから、きっと、ヴェートーベンさんは隣にいる家族とか恋人とか友人とかをイメージして、その人達との愛を表したかったのではないかと、佐渡さんから教わって。なるほどな〜と。その他にも、色々学ぶ事が多く、第9を聴くのがすごく楽しくなりました。