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──まず最初に、ファーストアルバム『ココロノウタ』は、どんな作品に仕上がりましたか?
酒井:北海道にいた高校時代に書いた曲から、東京に出て来てから書いた曲まで幅広く入っていて、本当に自分の成長日記みたいに思える作品になりました。心の中から湧き上がってくる言葉だったり、風景を見た感動から言いたいことが溢れてきて書いた曲だったりするので、『ココロノウタ』というタイトルはスゴク似合ってるなと自分でも思います。
重松:自分たちにとって本当に懐かしい曲から、東京に来てから出来た新しい曲まで、成長日記のようと言ったらその通りなんですけど、今のチュールが1枚に入っている作品になっていますね。
──『ココロノウタ』というタイトルには、どのような想いが?
酒井:タイトルはアルバムを作っていく中で決めました。最初にコンセプトを決めて作った訳ではなくて、初めてのアルバムですし、3枚のシングルだけじゃない、チュールのいろんな一面をアルバム1枚に全部詰め込みたいなって思ったんです。それで、自分たちが聴いて欲しいと思う曲を選びました。
自分の想いをどれだけ人に伝えられるかをスゴク意識したので、昔の曲も歌詞を変えたりしましたね。レコーディングでも“歌詞に寄り添う音作り”をしていったり、そういう意味でも“歌”が中心にあるアルバムになったように思います。だから、『ココロノウタ』というタイトルは、完成したアルバムに、とても似合っていると思います。
──ファーストアルバムの制作にあたって、特に意識したところは、いかがですか?
酒井:今まで曲を作る時はメロディの世界観優先でやっていたんですけど、最近は言葉を書くのも好きになってきたんです。「やさしさを考えてみる」を書いた時ぐらいから、メロディと同じぐらいに歌詞に込める想いが出てきたので。ディレクターさんには“人は歌を上から聴いていくから、耳に入る順番で、よりスンナリと心に響く言葉はスゴク大事だよ”とよく言われてましたけど、“私が書きたいことがコレなんだからイイじゃない!”と思っていました。でも、やっぱりディレクターさんの言った事がスゴイ正しいなって思って、それから言葉に関しては客観的に見ながら書くようになりましたね。言葉にこだわればこだわる程より深い、より人に伝わる歌詞にもなっていくことが分かってきたので、今回のアルバムの曲では、より言葉を意識しましたね。
重松:風景描写じゃなく、由里絵の心の中が歌詞によく出ている曲は、サウンドでどう表現するかスゴク悩みました。だから、“この歌詞はどういう風な感じなの?”とか歌詞の細かいところまで具体的に教えてもらって、音作りのヒントを得ようとしましたね。
アレンジャーの石崎光さんと一緒に制作していったんですけど、ベタッと歌詞に寄り添わず、あえて対比なことをやってみるサウンドもあって面白いなと思ったり、自分では作らないようなサウンドも色々やってみて、かなり勉強になりました。
──歌詞について、一番お聞きになったのは、どの曲でした?
重松:ほとんど(笑)。
酒井:雰囲気で受け取ってよっていう言葉まで単語単語を聞いてきて。“えっ!それも分かんないの?”ってイチから説明してたよね。
重松:例えば抽象的な歌詞だと人によっては捉え方が全然違うじゃないですか。一緒に1枚の作品を作るとしたら同じ方向を見たかったんです。だから僕はしつこく聞いてましたね(笑)。
──そうして曲の方向性を詰めてからのレコーディングは、いかがでしたか。
酒井:今回のアルバムは「苺日和」、「そんな今日も歩いている」、「願い」の3曲がギタリストでアレンジャーの石崎光さんと、「やさしさを考えてみる」は島田昌典さんとご一緒させていただいて、楽器の組み合わせが奏でる雰囲気とか、“歌詞に寄り添う音作り”を意識して、音の実験をしながらレコーディングしたことが勉強になりました。今まで以上に“音で楽しんでいる”実感があります。
アレンジャーさん、エンジニアさん、ディレクターさん、皆が自分の作品のように沢山の案を出してくれて。提案されたことに対しても、やってみて自分の考えに合わなかった時は、こうしたいって素直に言えましたし。だから、その言いやすい雰囲気を作ってくれた周りの方たちにもスゴク感謝しています。
私のベースにしても、ヘフナーのバイオリン・ベースや、リッケンバッカーは"あーイイな、この楽器"と惚れ込んでしまい、最近自分で買いました(笑)。そういう新しい楽器に触ってみるのも楽しかったですね。
重松:苦戦した曲もあったんですけど、全体的には楽しくレコーディングをさせてもらいました。シンプルなプレイほど、タッチから、音のもたつきから、バランスまで、スゴク実力が出るので、アコースティックギターを弾く曲は特に苦戦しましたね。インストアライブやラジオでカバー曲を演奏する時はアコギを弾いたりしますけど、ライブでは、ほとんど使わないんです。その分勉強になったし、アコギを弾くのも楽しいなって思いましたね。
──レコーディングに関しては、初回盤のDVDにレコーディング・ドキュメントが収録されていますが、ズバリ見どころは?
重松:全体的には、チュールがこうやってレコーディングしてるんだよというのが分かる仕上がりになっています。
酒井:いっぱい撮ったんだよね。謙太もオルガンを弾いてたり、いろんなギターを弾いたよね…あっ!リバースギターを入れる場所があって。リバースが“うわーん”って来て、その終わりで歌が入ってくるところがあるんですけど、それを謙太はテレキャスのギター、私はジャズマスターというギターが良くて意見が分かれたんです。ジャズマスターは割りと高音域で華やか、テレキャスは素朴というか華やか過ぎずキレイ過ぎず、少しクランチっぽい音なんです。歌う私からしたら、華やかな音が来てくれたほうが盛り上がったんで、絶対そっちがイイって主張して。最終的にスタッフ全員も交えて多数決を取ることになるんですけど、そのくだりは面白いよね。
──そこは要チェックですね。結局、採用されたのは?
酒井:ジャズマスター、華やかなほうですね。
重松:どちらも良い音なんですよ。なので、そこでは採用されませんでしたけど、実はテレキャスもメチャクチャ入ってるんですよ。
酒井:謙太があまりにも“テレキャスが良かったのに”って言っているから、エンジニアの方がミックスでいろんなところに沢山入れてくれてね。スゴイ素敵な感じになっています。それは聴いてみないとね。それがどこに見つけられるか、なぞなぞだよね(笑)。
──完成したファーストアルバム『ココロノウタ』を通して、リスナーの方にどんな想いを伝えたいですか?
酒井:スゴク他愛の無いことだったり、スゴイ悩んだこととか、スゴイ幸せだったり、日常生活の喜怒哀楽から生まれた曲がアルバムに入っているんですけど、その想いを人に押し付けたりとか、自分の気持ちを分かって欲しいとかっていう風に曲を書いている訳ではないんです。友達と食事をしながら他愛の無い話をしている時の“あっ、分かる分かる”というような感じに、アルバム1枚を聴いて欲しいなって思います。
重松:そんな深く考えず、悩んだ時とか、楽しい時とか、本当に気軽にかけてくれればと思います。押し付けがましくないのが、僕らの特徴なのかもしれないですけど。喜怒哀楽の詰まった曲が沢山入っているんで、いつでもそばにいるよみたいな感じでかけてもらえれば。それで『ココロノウタ』が、友達のように愛してもらえる1枚になれば嬉しいですね。
──それでは、収録曲それぞれについてお聞きします。最初に上京してから作られた曲を教えていただけますか?
酒井:「苺日和」、「やさしさを考えてみる」、「そんな今日も、歩いている」、「二人並んで」、「それが大人ってもんなのか」、「願い」の6曲ですね。それ以外の7曲は北海道時代に作った曲です。
──「見てみてよ」を1曲目に持ってきたのは、デビューシングルだからですか?
酒井:最初は「足跡コレクション」を1曲目にして、そこから道に迷い込んで行って、アルバムの中を冒険して行くような物語風の流れを作りたいとも思ったんです。「足跡コレクション」は、実際に道に迷って焦った時に、迷うっていうのは知らない場所に行けると思って、ふっと出てきた曲なんです。“まだまだ見つけちゃダメ”は自分に言っていて、まだ帰りたくなくて、もっと迷い込みたいっていう冒険心を歌っています。
でもファーストアルバムなので、まずはチュールのいろんな顔を見せるというところから1曲1曲をより輝かしく見せられる曲順を意識して、全体を考えて決めました。1曲目はパーッ!と勢いよく始まるっていう(笑)。
──2曲目の「苺日和」は2つのギターが奏でるイントロが印象的ですが、両方とも重松さんが演奏されたのですか?
重松:両方とも僕です。絡まっていくっていう二人の愛を表現したんです(笑)。最初は1本でやっていたんですけど、2本あるといいねとなって、それがまたメデタイ感じというか(笑)。
──歌詞の内容は、初々しくて可愛らしい感じの恋物語ですよね。
酒井:「苺日和」というタイトルは“恋の味”を表していて、1番は男の子目線から、2番は女の子目線から、最後はどちらとも取れるように歌詞を書いているんです。そして両想いだけど、甘酸っぱくて手も全然触れられないような状態で終わっているんですけど、この終わらせ方はギリギリまで悩みましたね。
──“近所のコンビニも侮れない”という歌詞は可愛いですよね。
酒井:最初は皆に、両思いの二人なのにストーカーみたいだって(笑)。スゴイ皆に“えー!”って笑われて。多分、女の子だったら“分かる分かる”と言ってもらえると思うんですけど。例えば学生時代に、廊下を曲がったら自分の好きな人がいるかもなんて思ったりするじゃないですか。その時にしか無いような初々しい気持ちを入れたかったんですよね。
──4曲目の「ため息」は、大好きな人と暮らす幸せな気持ちを綴った歌ですが、歌詞の発想はどんなところから?
酒井:北海道時代に付き合っている人がいて、私が身の回りの世話をやってしまうんですよね。例えば、ご飯を作って待っていると喜んでくれるので、それが嬉しかったから。その時の気持ちを書いた曲なんです。いつ歌ってもポッと恥ずかしくなっちゃうような曲ですね。
──“ため息”はネガティブなイメージで使われることが多いですよね。だから“ため息が出るほど幸せ”という表現が新鮮に映りました。
酒井:この時は本当に幸せで、ため息が出たんです。バイト先で平日のお客さんも全然いない時に、黙々と釣堀の釣竿を直しながら、そういう時もやっぱり相手のことを考えたりして。それで“何言われても今私幸せだわ〜”なんて思っていたら“はぁ〜”ってため息が出たんです。曲の途中に入っている“はぁ〜”というため息も“何で入れたの?”とよく聞かれるんですけど、自分でも何で入れたのか分からないぐらい、自然に出たんですよね。
──出だしのアコースティックギターは、やっぱり大変だったんですか?
重松:ハイ、正直(笑)。電気の通ってない感じの音で表現したかったんです。ただ、シミッタレるんじゃないかと、それだけが心配でしたね。
酒井:ライブでは「ため息」を全部エレキギターでやっているんです。だからアコギにすることで“畳感”が出たら嫌だなって。でも、完成した曲を聴いて、結果的にアコギでやって良かったとなと思います。
──曲が終わったかと思いきや、最後に入っている鼻歌によって、幸せそうに洗濯をしている主人公の姿が、より具体的に頭に浮かびました。
酒井:「ため息」が出来るずっと前に、家でご飯を作っていて出てきた鼻歌で、それを曲の最後に入れようと言ったのは謙太のアイデアです。