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7〜8月に開催されたふたりだけの弾き語りツアー“FUTATABI YUZU LIVE CIRCUIT 2010 SUMMER”を経て、制作されたニュー・シングル。
「from」は、岩沢厚治の作詞・作曲。シンプルなのに、聴けば聴くほど、大きく広がっていくメロディー。愛のその裏側まで描いた、儚く切なく、だけど力強いメッセージ。岩沢厚治ならではの唯一無二の表現力で作られた究極のラヴソングだが、楽曲作りは、骨組みの段階から北川悠仁も関わり、セッションしながら仕上げていったと言う。音数を減らしたアレンジ、これまでにないヴォーカル・スタイルなど、弾き語りツアー“FUTATABI”から大きな収穫を得た事を感じさせる1曲だ。
岩沢:この曲は、断片は以前から貯め込んでいて、寝かせてあったんですよ。“FUTATABI”ツアーを経たことで、ふたりのハーモニーのいい所と悪い所、ゆずの癖をより明白に把握する事ができたので、今ならいい形で仕上げられるんじゃないかと思って。昔のゆずっぽいシンプルな構成だったものに、自分たちなりの改良を加えてチューンナップして、今の形となった。かなり成長していった曲だと思います。シンプルな曲は音を重ねて豪華にするのは簡単なんですけど、シンプルさを維持しながら、ダイナミズムをつけることを心掛けました。
北川:岩沢はこの曲に対して、色々な思いが詰まっているだろうし、だからこそ、見えて来る部分と見えなくなる部分があると思うので、僕の役割は見えなくなってる部分を補いながら、ゆずの作品として昇華させていくことだろうなって。“FUTATABI”ツアーをやった事で、それぞれの得手不得手な部分が明確になり、それを補い合おうという意識はより強くなりましたね。
“裏切り”や“偽り”という言葉も含んだ歌詞。優しさだけが愛ではない。共に歩んで行くという事は、痛みや裏切りさえも享受するという事。長い歳月の中では、愛するがゆえに激しくぶつかり合う事もあるだろう。だけど、それでも、ずっと一緒にいるんだよ・・・儚く切ないメッセージの中に、強い意思が感じられる奥深い歌詞だ。
岩沢:ただのラヴソングにはしたくなかったんですよ。ラブソングの裏には、ラブソングじゃない部分も付いてまわるだろうから、そこも表現したいなって。ただし、そこだけを露骨に見せるんじゃなくて、光と影、生と死、幸せと不幸など、隣り合わせの要素もひっくるめて受け入れていく歌にしたかった。好きだという裏には大変なこともあるわけで、慎重に言葉を選びながら“裏切り”や“偽り”という単語も入れていきました。
北川:脆さ、危うさがありつつも、歌の中で色んなものを超えていく所がいいなと思いましたね。ラヴソングではあるけれど、色んなものにも置き換えられる。“FUTATABI”ツアーの直後だったという事もあって、この歌に関わっていく事で、ゆずからファンの方々への想いを、歌の中から見出していけたらという思いもありました。すべてを受け止めて、共に歩んでいけたらなって。
岩沢:「from」というタイトルをつけたのは、ひとつでは何もできないけれど、何かが加わる事で意味をなす言葉にしたかったから。“from 〜〜”とか“〜〜from”とか記号的なニュアンスですね。一人だけでは何も起こらないけれど、誰かが加わる事でハッピーになったり、アンハッピーになったりする。でも、アンハッピーな部分を避けていたら、何も進まない。誰かと出会って、関わっていこうとすると、いいことだけでなくて、悪いこともつきまとうけれど、そこも含めて受け入れていく歌詞にしたかったんです。
制作は、SAKURA STUDIOで行われた。自身のスタジオを持つ事で、楽曲作りにも大きな変化があったようだ。ボーカル・スタイル、アレンジもこれまでにないものを感じる。
岩沢:マイクとの上手な向き合い方も含めて、自分達の声質をより研究しながら作っていったんですよ。自分の声を実験台にして、何度も歌い直して、最もしっくりくる歌い方を探していきました。
北川:以前は、鮮度を重視していたので、出来たらすぐに録っちゃえというスタンスだったんですが、最近は、仮歌の段階からかなり歌い込むようにしているんです。せっかく、自分達のSAKURA STUDIOがあるんだから、レコーディングでも、なるべく歌い込んでいこうって。歌と向き合う時間はどんどん増えてきてますよね。
岩沢:サウンドは、シンプルにするために何を抜いたらいいんだろうと考えて、キーボードレスで行こうと。バラードだけど、あえてサビで歪んだギターを入れたり、挑戦した事はたくさんあって。ストリングスもバイオリンとチェロとビオラが1本ずつしか入っていない。音を重ねればいくらでも広がっていくんだけど、少ない楽器でいかに広がれるかが重要でした。
北川:シンプルな曲だからこそ、生のいい音で録りたかったんです。
岩沢:“FUTATABI”ツアーをやった事で、弾き語りの方が力強くて、尚且つ、繊細さも兼ね備えているんだと確信できたので、その良さを引き立てる演奏を心掛けました。
c/wの「赤いキリン」は、北川悠仁の作詞・作曲。自身が育った横浜の町の風景に、様々な想いを馳せる、ノスタルジックでありながら、未来も感じさせるナンバーだ。「赤いキリン」というタイトルが、実に印象的だが・・・。
北川:横浜の倉庫街に建っているクレーンが赤いキリンみたいだなと思って。無機質なものだからこそ、自分のその時々の心持ちが反映されていくんじゃないかなって。
岩沢:何の説明もなしに、瞬時に“あれねっ”て光景が浮かんで来ました。ベイブリッジとか橋が架かってる場所の横に目をやると、赤いキリンがたくさんいるんですよ。風景もとてもよく見えたし。この曲は、素材がとても良いので、そこを崩さずにいかに構築していくか、工夫のしがいがありました。コーラスも無理やりハモるのではなくて、どう心地よいハーモニーを成立されるか、色々と実験しつつ、丹念に追求していきました。
北川:SAKURA STUDIOから東横線が見えて、日が暮れてくると、その電車に乗って帰っていく人がいっぱいいるんですが、この人達が聴いてくれたらいいなと思いながら作っていきました。色々な人の人生の中で大切な曲の1つになれたらいいなって。
初回限定盤のDVDには、“FUTATABI”ツアーのライヴ&ドキュメント映像を収録。ツアーの準備から、ツアー終了1ヶ月半後まで、180日間に及ぶ密着取材。単なるライヴDVDではなく、ライヴ・シーンも、ゆずの生活の一部として切り取った、密着ドキュメント。結成時の写真や、11年前の弾き語りツアーの映像も含め、これまでの14年間を振り返りながら、“いま”のゆずの決意を描いた、実に丁寧で上質なドキュメンタリー作品だ。
岩沢:今までのライヴDVDとは違って、ライヴとドキュメントが半々の構成。報道番組を担当してきた方に密着していただいたので、切り口が面白いんですよ。僕らが当たり前にやって来た事が新鮮に映るみたいで、“弾き語りって大変なんですか?”と聞かれて、“えっ、そこから?”みたいな。僕らにとっては当たり前の事も、実はみんなには新鮮なのかなって。こういうドキュメントは初めてだったし、僕ら自身が観ても面白かったです。
北川:見せたくない映像もあるんですけどね。地味な練習風景とか、地味な打合せとか、ズタボロになってくたびれた30代のふたりの姿とか(笑)。でも、こういう過程があって、コンサートが出来ているんだという事を知って貰うのも面白いんじゃないかと思います。
“FUTATABI”ツアーを経て、来年は、3月からアリーナ・ツアーが始まる。現在は、待望のニュー・アルバムを制作中。進捗状況が大いに気になるところだが、ゆずからは、こんな心強いメッセージが・・・。
岩沢:絶賛、同時進行中ですね(笑)。まるで、アメリカ・ドラマの“24”みたいな感じで、パーツ、パーツで並行して作っているものが、いずれまとまって、1個の塊になる時が来るだろうなと。その日を夢見て、パーツを作ってる最中です(笑)。
北川:“FUTATABI”ツアーをやりながら心に誓ったんですよ。次のアルバムは、最高の作品にするぞって。“ゆずが全身全霊で作っているから、間違いなく、すごい名盤が出来るぞ〜!”って、叫びながら走り回りたいくらい(笑)。みなさん、そりゃもう、お楽しみにして待っていてください!