ハウスやボッサを基調とした先端的なサウンドと、日本語詞の親しみ易さが溶け合った、何とも心地よいサウンドで、クラブ・シーンを賑わして来たROCKETMAN=ふかわりょうが、音楽活動10周年を迎え、初のベスト・アルバム『thank you for the music!』をリリース。
これまでの2作のアルバム『愛と海と音楽と』『THE SOUND OF MUSIQUE』から、一十三十一、さかいゆう、KARINなど多彩なヴォーカリストを招いてのナンバーをピックアップ。鈴木亜美とのコラボ曲、自身がプロデュースを手掛ける女の子ユニットCOSMETICSの新旧ナンバーに加え、iTunes総合チャートで1位を記録した配信限定シングル「dancemusic」を始めたとした新曲も収録。
リリース目前のロング・インタビュー。“作品(曲)は、世界と僕との折り合い地点”と語るROCKETMAN=ふかわりょうは、終始、厳しいほどに真剣なまなざしだった。
──配信限定シングル「dancemusic」がiTunes総合チャートで1位を記録。率直に、どんな感想をお持ちになりましたか?
これまで、良くも悪くもヒットさせたいという気持ちを強く持った事はなく、ただ、音楽が好きで、DJや曲作りを続けてきただけだったんですけど、やっぱり、率直にうれしかったです。しかも、ちょうど10周年というタイミングだったので、10年やって来たご褒美をいただいたような気持ちです。
──「dancemusic」は、ベスト・アルバムの1曲目にも収録。10周年の節目の1曲という事で、何か意識する事はありましたか?
ずっと継続して来た事なので、楽曲づくりでは特に意識するものはなかったんですけど、やっぱり何か1つは10周年の記念になるような事をしたいと思って、「dancemusic」に関しては、ひとに歌ってもらうのではなく、自分の声で作りたいと最初から決めていました。
──ソロでのROCKETMANの活動が10周年を迎えられたわけですが、そもそものROCKETMANは、1998年に小西康陽さんとのユニットとしてスタートされたのものですよね?
そうなんですよ。元々は、スネークマンショーのような“音楽とコント”が共存するCDを作ろうという企画があって、音楽は小西さん、僕はコント担当という棲み分けで、1998年に『フライング・ロケットマン』というアルバムを作ったんです。その後、小西さんがユニットからは卒業して、ROCKETMANは僕一人になったんですけど、2作目の『ロケットマン・デラックス』(2000年)も、“音楽とコント”というそれまでと同じ路線で、この段階では、僕はまだコント担当。音楽は、小西さんも含めて、色々なDJの方にお願いするというスタイルでした。
──コント担当としてスタートしたROCKETMANが、楽曲作りにまで携わるようになったのは、何かキッカケが?
2作のアルバム制作を通して、自分の中の音楽の血が騒ぎ始めて来たんですよね。僕は小さい頃からずっとピアノをやっていて、ピアニストになりたいと思っていたほど音楽が好きだった。最初は、コント担当として参加したROCKETMANだったんですけど、ミュージシャンの方々と接しているうちに、自分でも曲を作ってみたいという気持ちがどんどん強くなっていったんです。それまで、トラック作りはミュージシャンの方にお願いするものと思いこんでいたんですけど、そう決めつけずに、自分でもチャレンジしてみるべきじゃないか。できるんじゃないかって思うようになったんです。それで、“音楽とコント”というそれまでのスタイルは一旦終了して、僕一人で音楽をやってみようと思ったんです。
──DJとしての活動を始められたのも、その頃?
そうですね、2000年頃からです。でも、元々DJをやりたかったわけではなくて、楽曲制作をする土壌としてクラブを選んだんです。あくまで、自分の音楽表現の場として、クラブを選んだという感じです。突然、僕が音楽をやりたい、曲を発表したいと言っても、そういう場が与えられるわけではないし、クラブでDJをやりながら、自分の曲を発表していこうと考えたんです。それまで、芸人の部分しか見せていなかったのに、いきなり、音楽やってますと言っても説得力に欠けるとも思ったし。
──でも、DJというのもいきなりできるものでもないでしょう?
以前から、積極的にCDを買う方で、いわゆるJ-POPとかではなくて、クラブ系のラウンジ・ミュージックとかかなり聴いている方だったんですよね。それで、知り合いのイベントにCD持参で行って、ちょっと遊びでDJをやらせてもらったりはしていたんです。それがすっごく楽しくて、これだったら続けられるなと思ったのがスタート地点ですね。
──この10年間、日本中のクラブでプレイなさって来たそうですが。
そうですね。北海道から沖縄まで全部回ってますね。日本中のクラブをほぼ制覇していると思います。レギュラー・イベントに加えて、毎週末どこか地方に行ってプレイしていた時期もあったんですよ。
──3作目のアルバム『愛と海と音楽と』は2006年のリリース。DJ活動を始めてから約6年を経てのリリースとなったわけですが。
そうなんですよね。6年経って、やっとリリースできたんですよ。自分の音楽をCDという形にしたいという思いはずっとありましたけど、リリースが保証されているわけではないし、その5〜6年の間は、DJをやりながら、ひたすら楽曲を作り続けていました。とにかく作り続けて、いつかこれを形にしたいと思って、ようやくそれが叶ったのが『愛と海と音楽と』だったんです。
──『愛と海と音楽と』も、続く『THE SOUND OF MUSIQUE』も、リゾート・ミュージックと呼ぶに相応しい、本当に心地よい作品でした。ご自身では、ROCKETMANの音楽をどんな風に捉えていますか?
“SUNSET RECORD”というレーベルを立ちあげたんですけど、やはり“SUNSET RECORD”というイメージ・マークが僕の音楽の世界を表す大きな要素だと思っています。今日も、そのTシャツ着てますけど(笑)。海でサンセットを眺める時の切なくも幸せな感じ・・・何とも言えない気分になるでしょう。あのイメージですね。それから、時の流れに自然とリンクするような音楽でありたいとも思います。日常の中のその瞬間、瞬間に、フィットするようなサウンドであったらいいなって。朝日の時にはこの曲が合うなとか、車に乗っている時はこの曲を聴きたいとか、夜はこれが合うなとか、その時々の心境にフィットする音楽。例えば、レンタルビデオ屋さんに行って、観たい映画を探す時ってあるでしょう。その時の気持ちに合うものを探して、それがうまくハマった時って、すごく気持ち良いですよね。そんな風に、日常の中で、聴いている人の何かにフィットするものがあるといいなって思うんですよね。それがきっと、心地いいという事なんだと思うんです。
COSMETICS
ROCKETMANが作詞・作曲を始め総合プロデュース。素人の女の子3人を新感覚のガールズユニットに育成するプロジェクト。
昨年12月までの第1期COSMETICSに続き、新たなメンバーを迎えて、新生COSMETICSが活動開始。ROCKETMAN10周年記念ベスト『thank you for the music!』に収録の「LOVE IS ALL〜これからはじまるstory〜」でデビュー。
左から、あやな、ひなこ、なるみ
──楽曲づくりはどんな風に?トラックからですか?
トラックからですね。最初にピアノで下地を作って、どんどん音を重ねていって、最終的にメロディーを乗せる。歌詞は一番最後です。
──クラブ・シーンというのは意識する?
僕自身がDJをやる時にかけたいと思うので、そういう意味では意識はしてますよね。ただ、僕自身は、いわゆるクラブ・ミュージックだとは思っていなんです。クラブでもかけられる曲、ですね。
──本当にバラエティー豊かな楽曲なんですが、最初にピアノを鳴らす時点から、こんな曲にしようというイメージがある?
ピアノの段階ではまだ全体像はないですね。音を重ねていくうちに全体像が見えてくるという感じです。
──ラヴソングを作ろうとか、こういう主題で作ろうと思って、音を出していくのですか?
全然そういう事じゃないんです。例えば、もしどなたかに、ラヴソングを作ってくれと頼まれたら作れるとは思うんですけど、僕にとって、作品(曲)というのは、僕と世界との折り合いなんですよね。僕という一人の人間がいて、世界というものがある。そこに生まれる折り合い地点が曲になるんです。音というのは、その人の人生、生きてきた環境が全て反映されると思うんです。例えば、僕はアイスランドが好きでよく行くんですけど、アイスランドのアーティストにしか出せない音というのがあるんですよね。僕らが日本で聴いても全然ピンとこないけど、現地に行って聴いたらすごくよくわかるとか、そういう事もあるし、もし僕が、日本人ではなくて、全く別の所で生まれ育っていたとしたら、出て来る音も全く違うものになっていると思うんです。
──それは、言葉や文字で表すのとはまた違うものですか?
音は、自分がイメージするものを作っていくわけだから、より自分の感情に近いものになると思うんです。だからこそ、ちょっとでも違うと、もう居ても立ってもいられなくなっちゃう。結局、これでOKというのは、誰が決めるものでもなく、自分の心地よさで判断するわけですよね。じゃあ、そのセンスや感性というものは、どこから生まれるかと言うと、それは、その人が生きてきた世界で培われてきたものでしょう。という事は、僕の中から出てくる音というのは、僕が生きてきた世界、いま生きている世界との間から出て来る音という事ですよね。世界との折り合いという表現が正しいかどうかわからないけど、例えば、男女が結婚して、一人の子供ができるのと同じように、僕と世界との間で生まれた子供のようなものなんですよ。僕が生まれて、35年間生きて来たこの世界の中で、得たもの感じたもの、あるいは今感じているものに対しての折り合い地点が曲なんです。 |