昨年9月、クラシックの名曲に日本語のオリジナル歌詞をつけたカヴァー・アルバム『my Classics!』をリリース、大ヒットを記録。レコード大賞優秀アルバム賞も受賞した平原綾香が、シリーズ第2弾となるニュー・アルバム『my Classics 2』をリリース。
数百年前のメロディーから作者のメッセージを汲み取り、そこに、現代に生きる平原綾香の想いを重ねた歌詞は、前作に比べ、より心情的となり、自身の音楽家としての決意と真摯な姿勢が伺えると同時に、いまを生きる日本人に力強いメッセージを放つ作品となった。
ア・カペラ、スローバラードからビートの効いたジャジーなアレンジ、情熱的なラテン・ナンバーまで、アレンジも実に多彩。クラシックが、ぐっと身近に感じられる。
選曲の意図から、アレンジのポイント、歌詞に込められた想いまで、深くじっくりロング・インタビュー!
──『my Classics!』に続くシリーズ第2弾『my Classics 2』がいよいよリリースとなりますね。
『my Classics!』は、皆さんから、カヴァーしてほしいクラシック曲を募集して、その中から選曲したのですが、全部叶える事はできなかったんですね。なので、こぼれてしまった曲も含め、『2』を作りたいというのは、その時から思っていたんです。
──クラシック曲に詞を乗せるというのは、どんな風に発想していくのでしょう?
私は、メロディーをカヴァーするだけでなく作者の想いもカヴァーする、そういう姿勢で取り組んでいます。作者がどんな人生を送って来たのか、どんな考え方を持っているのか、そういう事を詳しく調べてから、歌詞を書いていきます。クラシックというのは、みんなのクラシックですからね。私の想いだけでなく、作者の想いも照らし合わせてカヴァーする事が私にとっての使命だと思っています。
──シリーズ2作目という事で、特に意識された点はありますか?
前作の『my Classics!』は、“月と太陽”をテーマに、ジャケットも、後ろに月、私の胸元に太陽のネックレスというデザインだったのですが、どちらかと言うと“月”のイメージが強い作品だったと思うんですね。歌詞も、内に籠りながら、深い所から光を見出していくような、そんな作品が多かったと思うんです。でも、今回は、常に太陽に向かって行く、光を感じる曲を歌いたいというのがテーマになっています。選曲に際しても、テンポの速いアレンジにできる曲というのは意識しました。
──選曲やサウンド作りはどんな風に?
考え方は2つあって、ほとんどは、曲を選んでからアレンジを考えるんですけど、逆に、こういうサウンドにしたいというのが先にあって、それに合う曲を選ぶという場合もあります。クラシック曲と言うのは、すごく自由で大きいんですね。どんなアレンジにも対応してくれるんです。どんなアレンジで歌っても、メロディーの美しさ、強さは変わらないんですよね。曲の中にたくさんのメッセージがあるので、それを読み取る事によって、アレンジも変わっていきます。
──前作『my Classics!』では、非常にストーリー性の高い歌詞が印象的でした。今作の歌詞は、とても心情的になっているように感じましたが、ご自身ではいかがですか?
そうですね。もちろん、『my Clsaaics!』にも作品としての目線はあったのですが、今作の方がよりハッキリした視線がありますね。これまでは、大きな愛を歌う傾向にあったんですけど、今回は、身近な愛とか、身近に起こっている自分の葛藤とかをより描いていると思います。楽曲と向き合う中で、“自分らしさ”について考えさせられる事も多く、本当の自分は何なんだろうと考えるキッカケにもなったので、そういう意味でも、パーソナルなメッセージが多いのかもしれませんね。
──歌世界として、誕生、旅立ち、出発といったテーマを感じる曲が多いように思いました。意思や決意を感じる詞と言いますか、大海原を渡って行くようなイメージですが?
まさにそうですね。『my classics!』では、ドヴォルザークの「新世界」をカヴァーしていて、新世界へ行きたいという想いで終わっていたんですよね。その後を描いたのが『2』で、新世界に辿りついて、そこから歌い始める。やっと辿りついた新世界から何か発する事を予感しての作品が多いので、やっぱり、新しい自分とか、色んなものを手放す感覚とか、そういうものがより強く出ていると思います。
──全14曲。実にバラエティーに富んだ作風ですが、1曲ずつ、楽曲にまつわるお話を聞かせていただけますか。まずは、1曲目の「セレナーデ」。チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」を、ア・カペラのコーラス作品にアレンジされていますが。
この曲は、元々弦楽オーケストラのための作品なんですけど、そのオーケストラの響きを、声だけで表現するというのは、とても面白かったですね。1stバイオリン、2ndバイオリンというように、オーケストラの譜面を見て歌っているんですよ。コーラスというのは、同じ声ではハモらないんですよね。一人一人違う声だからハモるんです。だから、レコーディングでは、4種類のマイクを使って、少しずつ声質を変えているんです。ズレているから美しい。みんな違うから美しいんだなというのは、合唱やオーケストラを通してすごく感じる事ですね。
──「Sleepers,Wake!」は、バッハの「カンタータ第140番」ですが、ビートの効いたアレンジで、独特なリズムがとても印象的ですね。夜明けとか、春の訪れを感じるような、何かが始まる事を予感させるサウンドですね。
この作品は、初めにリズムを決めて、そのテンポに合う曲を後から探したパターンなんですが、春が来た感じですよね。木々が目覚めて、花が咲いて、春が来て私も目覚める・・・そんなワクワク感と、蕾がぽっぽっと開くようなイメージが、ストリングスのピチカートで表現されていて、本当に夢見るような、幻想的なサウンドに仕上がったと思います。
──新しい自分というものをテーマにした、非常に強い意思を感じる歌詞ですが。
「Sleepers,Wake!」というタイトルが大好きなんです。日本語では「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」とか「〜呼ぶ声あり」と訳されていますけど、本当に呼ぶ声が聞こえて来る。新世界へ行くためには、目覚めないといけない。そういうポジティヴなメッセージをメロディーから受け取って、歌詞を書きました。
──「威風堂々」は、エルガー作曲の行進曲ですね。英国では、第2の国歌と称される曲で、卒業式やサッカーの応援歌としても耳にする機会が多いですが。
以前から、ずっとカヴァーしたかったんですよね。やはり、卒業式の印象が強くて、私の中では、新しい世界へ旅立っていく、夢に向かって進んでいくというイメージの曲。だから、今を頑張って生きている人達への応援歌にしたいと思いながら歌詞を書きました。
──自分の道は自分一人で歩いて行くものだという、とても力強いメッセージを感じました。♪上り下りの一本道に 僕らはどうして迷うのだろう〜という一節は、とても心に残るフレーズですね。
私にとっての“威風堂々”とは何なんだろうという事をすごく考えました。一本道というのは、迷う事はないはずなのに、その道が上ったり下ったりしていると、迷いを感じてしまう。でも、道は1つしかない、自分は自分でしかないんですよね。だから、その道の真ん中を歩いて行くというのが、私にとっての“威風堂々”なんだって思ったんです。今の道でいいんだよ、今のあたなでいいんだよというのは、私も言って貰いたいし、感じたいし、感じてほしい事ですね。
──「my love」は、オペラ「リナルド」の中の1曲「私を泣かせてください」が原曲ですが、子どもを得た時の感動、喜びに満ちた詞ですね。あまりに真に迫った歌だったので、もしかして、実は平原さん、お子さんがいらっしゃるのではないかと(笑)。
ええ〜っ私に子ども〜!?いたら、ビックリですよねぇ(笑)。でも、そこまで言って貰えるのは、すっごくうれしいですね。子どもが生まれた時の感覚とか、育てる時の想いを、父や母に聞いたり、スタッフの中にも最近パパになった人もいるので、そういう人からも心境を聞いたりして、書いていきました。1番は母さん、2番はお父さんの気持ちを書いた歌詞なので、1オクターブ違いで歌っています。
──10曲目の「mama's lullaby」は、そのアンサーソングとも言える、子どもからお母さんへのメッセージとなっていますが。
最近子育てに悩んでいるお母さんがたくさんいると聞いて思いついたアイデアなんです。親から子への“子守唄”と、子から親への“親守唄”みたいなものを同時に作りたいなと思って。メロディーは、ブラームスの「子守唄」なんですが、こちらは、赤ちゃんの気持ちになって書いた詞です。初めてお母さんになった時って、赤ちゃんに泣かれると途方に暮れてしまいますよね。でも、子どもは、おむつが気持ち悪いとか、暗闇が怖いとか、そういう理由があって泣く時もあれば、ただ僕のこと見て、私のこと見てと言いたくて泣いてる事もあると思うんですよね、きっと。
──♪本当はあなたの気を引きたいの〜という一節がすっごくイイですね。赤ちゃんに泣かれても、そう感じる事ができたら、お母さんも少し気持ちに余裕が持てますよね。
ポジティブになれるんじゃないかと思います。♪あなたをえらんで 生まれてきた この名前もこの生き方も〜というフレーズもあるんですけど、例えば、私の名前が綾香でなかったとしたら、今の私とは違う人になっていたと思うんです。子どもはちゃんとパパとママを選んで生まれて来ているし、名前も自分で選んで生きている。だから、是非、お母さんには、安心して子育てしてほしいなと思います。 |