ホルストの「木星」(組曲「惑星」より)に日本語詞をつけた「Jupiter」で鮮烈デビュー。その後も、「ノクターン」(ショパン作曲)、「新世界」(ドヴォルザーク作曲)と、クラシックの名曲を取り上げたシングルを発表してきた平原綾香が、その集大成とも言うべきクラシック・カヴァー・アルバム『my Classics!』をリリース。
幼少期からクラシックに親しみ、音楽大学ではサックスを専攻。慣れ親しんだ数々の旋律に敬意を込め、深い解釈から生まれた、美しく斬新でドラマチックな歌世界。平原綾香にしか成し遂げない唯一無二のアルバムだ。
最新シングル曲でもある「ミオ・アモーレ」は、TBS系金曜ドラマ“オルトロスの犬”の第5話(8/21放送)で、平原綾香扮する余命わずかな人気歌手・レイが歌ったナンバー。ドラマ放送直後から、着うたフル(R)のダウンロードが集中。若い世代を中心に大きな支持を得ているラヴソングだ。
「ミオ・アモーレ」は、オペラを生んだ国イタリアの2つの名旋律を、愛をテーマに融合させ1つの曲に仕上げたもの。前半は、イタリアでは誰もが知るナポリ民謡「カタリ・カタリ(Core 'ngrato)」。カルディッロの名曲で、つれない女心を歌う男性の歌。後半は、プッチーニ作曲のオペラ『トゥーランドット』劇中歌「誰も寝てはならぬ」。美しいが冷酷なトゥーランドット姫の心を愛の力で溶かすという物語だ。
2曲とも、本来は男性曲だが、原作からインスピレーションを受けた平原綾香が女性の気持ちに焦点を当て自ら詞を書き、愛し愛される喜びに満ちた、美しく、たおやかなラヴソングを生み出した。ウエディング・ソングとしてもピッタリ。新婦に捧げたい1曲だ。
クラシックと言うと、かしこまって“拝聴する”音楽。そんなイメージがあるが、18〜19世紀のヨーロッパでは、広く大衆に親しまれた最先端のヒット・ミュージックであり、ダンス・ナンバーであった。若き作曲家が競って新曲を披露。人気を得ていた。
例えば、アルバム1曲目の「pavane 〜亡き王女のためのパヴァーヌ」。“pavane(パヴァーヌ)”とはスペインを起源とする宮廷舞曲。原曲は1899年に書かれたピアノ曲だが、作曲したラヴェルは、当時24歳。110年の時を経て、25歳の平原綾香が詞を書き、26歳のejiがアレンジを施した。つまりは、同世代による瑞々しいコラボレーションなのだ。そんな風に捉えると、クラシックの名曲もグッと身近な音楽に思えてくる。
主人公が思い返しているのは、かつての恋人だろうか。亡くなった誰かだろうか。もう会う事のないその人を、会えなくてもずっと想っている。どこかジャジーな雰囲気を携えた、切なく美しいバラードに仕上がった。
全12曲のうち、10曲を平原綾香自身が作詞。原曲の持つ物語性を捉えながら、様々な愛の物語を書きあげている。
ピアノの調べに乗せて静かに始まり、次第に高まっていくラヴソング「シチリアーナ」(レスピーギ作曲)の詞は、21歳の時に書いたものだと言うが、繰り返される♪未来などいらない ただあなたがほしかった・・・というフレーズが胸を突く。“シチリアーナ”とはシチリア島を起源とする舞曲のことだが、悲しみのダンスを一人踊るバレリーナ・・・そんな雰囲気のナンバーとなった。
「ロミオとジュリエット」(プロコフィエフ作曲)では、“僕”という一人称を用い、ロミオの視点で、決して成就する事がない愛の行方を歌う。ロック、メタル、プログレと様々な要素が詰まったスリリングなサウンドが、サスペンスフルな物語をより際立たせている。
「千夜一夜物語」いわゆる「アランビアン・ナイト」をモチーフにした「シェヘラザード」(リムスキー=コルサコフ作曲)では、千と一つの物語を王様に語り聞かせたというシェヘラザード王妃をイメージさせつつ、ファンタジックなサウンドに乗せて、何とも可憐な愛の世界を描いているし、合唱曲としても知られる「Moldau(モルダウ)」(スメタナ作曲)では、川の流れを人生に置き換え、ピアノだけのアレンジで、追憶の恋をジャジーに歌いあげている。
「仮面舞踏会」(ハチャトゥリアン作曲)は、そもそもは、嫉妬深い夫が妻の不貞を疑って毒殺してしまうという物語だが、男性を翻弄する魅惑的な女性の一夜の物語を、妖しげなサウンドに乗せて描いている。
そして、「AVE MARIA(アヴェ・マリア)」(カッチーニ作曲)は、たった数行の短い詞の中に、平原綾香の音楽に対する深い愛と敬意とそして大きな感謝が詰まっているようだ。
アルバムには、デビュー曲「Jupiter」、昨年のドラマ“風のガーデン”の主題歌・挿入歌となった「ノクターン」「カンパニュラの恋」、そして今年5月にリリースした「新世界」も収録。
クラシックが、これほど身近で親しみやすい音楽として感じられるのは初めてだ。本人によるライナー・ノーツも楽しく、それぞれの原曲への興味も湧いてくる。これぞ、平原綾香の真髄。名盤の誕生だ。 |