ショパンの夜想曲20番をモチーフに英語詞で歌う「ノクターン」と、日本語詞を乗せた「カンパニュラの恋」の両A面。自身もシンガー氷室茜役で出演中のドラマ“風のガーデン”主題歌/挿入歌として、注目を集めている平原綾香。
劇中でも歌われる「カンパニュラの恋」は、平原綾香自身が作詞したもの。脚本家・倉本聰と何十回にも渡るやり取りを経て書き上げたというこのバラードには、茜(平原綾香)のどんな想いが込められているのだろうか。
──まずは主題歌「ノクターン」なのですが、ショパンの曲をモチーフにというアイデアは、どういったところから生まれたのですか?
実は、この曲は一年ほど前に作った曲なんです。いつかクラシックだけのアルバムを作りたいと思っていて、その時にショパンも歌えたらと思って仮歌で録音してあったんですね。“風のガーデン”の主題歌のお話をいただいた時に、脚本家の倉本聰先生から、クラシックをモチーフにしたいというリクエストがあって、それで、この曲を聴いていただいたんです。
──死を目前にした主人公への無償の愛を歌っているようで、てっきりドラマのための書き下ろしかと…。
それが全然違うんですよ。歌詞も1年前にできていたんです。生まれ代わったあともずっと繋がっているという強い愛がテーマで、もちろん、作詞家の史香さんはドラマのことを知るはずもなく書かれた詞で、全くの偶然なんですけど、こういう偶然ってあるんですよね。すっごく不思議です。一箇所だけ、“カンパニュラ”という言葉を加えましたけど、それ以外は、元の歌詞のままなんですよ。
──日本語版の「カンパニュラの恋」は、ドラマの中で、平原さんが演じるシンガー氷室茜が歌う曲ですね。
茜は、主人公の貞美先生(中井貴一)の恋人で、ホテルのラウンジなどで弾き語りをしている無名の歌手なのですが、ショパンの「ノクターン」に日本語詞をつけた「カンパニュラの恋」という曲を歌うことになり、シンガーとして成功していくんです。そういう脚本でしたので、最初から「カンパニュラの恋」という曲名だけは決まっていたんですね。
カンパニュラにも色々な種類があるんですけど、“風のガーデン”に出てくるのは、白いカンパニュラなんです。5月頃に咲く花なんですけど、だんだん夏が近づくと暑さに負けて死んでしまう、とっても儚い花なんですね。“風のガーデン”には、色々な植物の物語が織り込まれているのですが、その中で、カンパニュラが背の高いホリホックに恋をしちゃうっていうストーリーが出てくるんですね。ホリホックは、真夏に大きな花を咲かせる背の高い華やかな植物です。茜がカンパニュラで、貞美先生がホリホック。叶わぬ想いというのがテーマです。
──死を目前にした貞美先生へ、茜が捧げた歌のようにも思えたのですが。
茜は貞美先生の病気のことは知らないんです。茜は22歳で貞美先生は46歳。無名の歌手と麻酔科の権威の先生。たぶん、茜は貞美先生が自分のことを子供扱いしていて、女として見ていないんじゃないかという不安があったと思うんですね。もし同じ時代に生まれていたら結ばれていたのかもしれないけれど、出会ったのは今だった。出会えたことの嬉しさと、こうした出会いになってしまったことの切なさの両方があって、「カンパニュラの恋」というのは、そういう茜の叶わぬ想いを歌った歌だったのですが、結果としては、愛する人が先立ってしまう。それを予見するような歌を歌っていた、そういう切なさも、この歌にはあると思います。
──「カンパニュラの恋」の作詞は平原さんご自身ですが、どんな風に詞を書いていったのでしょう?
カンパニュラというは、誰もが知ってる花ではないでしょう?だから、まず、カンパニュラが花の名前だということをわかる歌詞にしなくちゃというのが、最初の課題でした。
それから、英語詞の「ノクターン」は、精神世界を書いた詞ですよね。私も最初は、心情を綴った詞をイメージしていたのですが、倉本先生と何十回とやりとりをする中で、先生から“自分の思いを書くよりも、場面設定をしっかりした方が深い詞になる。日常の言葉や風景が歌詞に入るだけだけで、聴く人に色々な想像が生まれる。だから、カッコイイ言い回しとか必要ないんだ”というアドバイスをいただいて。
カンパニュラの花の描写とか、愛した人との日常の断片、愛した人を思い出す風景とか、そういうことを描写しながら、その中で愛を表現する、そんな歌詞になったと思います。そこが、英語詞の「ノクターン」と大きく違うところですね。
──♪私が愛した あなたの声を 忘れられる日はくるの?・・・というフレーズが切ないですね。
この詞を書きながら、改めて気づいたことなんですけど、誰かを思い出す時って、その外見よりも“今でもあの人の声が耳に残っている”とか、“あの人の匂い”とか、そういう形に残らないものの方が強いんだなって。声って切ないものに変わっていきますよね。
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